「パワハラをしてしまう人の背景には、業績や自己保身に関する不安があることが多い。不安が強い人は、他人に対する期待値が高い一方で、周囲の人間のパフォーマンスを引き出す手段を多く持っていません。だから『何でできないんだ!』と、他人に苛立ってしまう」 

(AERA 2021年12月6日号より)
(AERA 2021年12月6日号より)

他者肯定力を上げる 

 他者肯定力は、当然、信頼関係にも大きく影響する。 

「柱がお館様(産屋敷)のお願いをさらりと断れるのは、率直な意見を言っても怒りはしないという“安心感”があるため。このような心理的安全を確保するには、相手に言葉を尽くして説明すること、仕事のルールや方向性を明確に示すことです」 

 鈴木医師は、他者肯定的な見方を養う方法として「サンクスノート」をつけることを勧める。 

「1日の終わりに、その日あった感謝すべきことをノートに書き出してみる。すると、自分の存在や環境がさまざまな人の働きかけで作られていることが自覚でき、他者への期待値が下がり、他者肯定力が上がります」 

 感謝の言葉を書いたり、声に出すことで、幸福度が上がり、抑うつ症状や不眠症状が改善したという報告もあるという。 

「もう一つは、『自分にはない強み』の利点を知ること。人間は基本的に“自分と似ている人”を高く評価します。自分と考え方や得意分野が違う人が、仕事で強みを発揮してくれていても、それに対する理解がなければ正しく評価できないのです」 

 現実社会では鬼舞辻のように否定的な上司から理不尽な言葉や評価を投げつけられることもある。その際、自尊感情を守る方法はあるのだろうか。 

「自分が傷ついたことを“なかったことにしない”ことです。『気にしないようにしよう』と思いがちですが、人間の感情はそう簡単に制御できない。かえって長期的に自分の心を蝕む要因となってしまいます」 

 傷ついたときは、友人や家族、カウンセラーなどに話す、日記を書くなどして、感情を吐き出すことだ。すると、感情の「圧」が下がって楽になる。 

「第三者に話すことで自分の考えや感情が相対化され、『自分の感覚はおかしくない』と気づくことができたり、俯瞰して状況を捉えられるようになります」 

 非認知能力を育むうえでも、自分の心を守るうえでも、必要なのは「信頼できる他者の存在」だ。鬼殺隊が超人的な力を駆使する鬼たちに勝利できたのは、「ひとりで抱え込まなかったから」でもあるのだ。(ライター・澤田憲、編集部・澤志保)

AERA 2021年12月6日号より抜粋