大ヒットし、社会現象まで巻き起こした「鬼滅の刃」。漫画作品が大ヒットし社会現象まで起こるときの条件とは何か。『Dr.スランプ』や『ドラゴンボール』などを担当した漫画編集者、鳥嶋和彦さんがAERA 2021年12月6日号で語った。
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>>【前編「漫画こそ時代を映す鏡」 “伝説の編集者”鳥嶋和彦が語る大ヒット作の条件とは】より続く
――『鬼滅の刃』のヒットを、どう捉えているのだろうか。
第一話の作り方が非常にうまいですね。冒頭、炭治郎が妹の禰豆子を背負って、「絶対助けてやる」と言っていますが、1ページ目で主人公は誰で、何をする人で、何が目的かが明確に描かれているんです。さらに「幸せが壊れる時にはいつも 血の匂いがする」というセリフだけが二回出てくる。それがこの作品のテーマでもあるんですよね。
せりふに力がある
背中に妹を背負うというのはアジア的です。欧米は子どもをベビーシッターに預けますが、アジアは背中に背負って子守をする。子連れ狼は乳母車を押しながら旅をする剣豪の物語ですが、他の国にはああいうヒーローはいないでしょう。
背負うことによって戦いにくくなるわけですから、明らかに戦闘面ではマイナスのはずですが、そこに炭治郎の目的があり、行動原理がある。禰豆子をおろした瞬間に炭治郎が炭治郎ではなくなる。「きょうだいを助ける」という目標設定は、子どもにとっても身近ですよね。
漫画は、コマとせりふと絵から成っています。吾峠呼世晴さんは、鳥山さんと比べると、特に空間を把握したロングカットやアクションを描くのは決してうまいわけではない。けれども、せりふにすごく力があるから、迫ってくるんですね。
無邪気な夢から「誰かのために」
――注目しているのは、かつてとは違う主人公の「動機」だ。
以前の少年漫画の主人公の動機や行動規範は、『ドラゴンボール』なら「強くなりたい」とか、『NARUTO』では「火影になる」とか、『ONE PIECE』では「海賊王になる」とか、ある意味すごく無邪気なものでした。
ところが、『鬼滅』は「妹を救う」、18年から連載された『チェンソーマン』では「仲間の代わりに夢を見る」や「普通の生活をする」ということで、半径2メートル内の誰かのために生きる。そこに現代のリアリティーがあるんです。