最終的にどちらかにのみ込まれるのはわかっている。けれど、無条件に降伏するのではなく、頭を使い、しぶとく戦略的に手札を切っていく。

「皆、状況さえ良ければ、勝つことは意外に容易だと思うんです」と垣根さんは言う。

「けれど、ほとんどの人は“負け方”までは考えられない。実際には劣勢に立たされた時こそ真価が問われる。僕自身、悪い時にどれだけ頑張れるか、という視点で人を見ているところもあります」

 調子がいいときよりも、窮地に立たされたときにこそ、その人の本性や生き様が立ち現れる。直家の潔くも、練られた生き方は、とても現代的でこれからの日本に必要な姿勢だとも感じている。

「日本の経済を見ても、IT業界以外で元気なところってないですよね。僕らが目指すべきところは、昭和のような出世物語ではなく、どのような状況でも負けない戦を続けていくことではないか。娯楽作品ではありますが、いまを生きるうえでの“引っかかり”になるような作品になれば」

 商人に憧れつつも、どこか諦観しながら武士として生きた直家の内面は、私たち一人ひとりの人生にも重なる。

「自分が思うように生きることができる人って、僕を含めて多くはないと思うんです。皆、いくつもの矛盾した自分を内側に抱えながら生きている。そうしたときに、人は最終的には『心の平穏』を求め生きていくのではないか」

“悟りの境地”を意味する仏教用語、「涅槃」にはそんな思いも込められている。

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2021年11月29日号