自民党総裁選では、岸田文雄首相を紹介する際に「東大3回落ち」がよく聞かれた
自民党総裁選では、岸田文雄首相を紹介する際に「東大3回落ち」がよく聞かれた

東大に3回落ちて早稲田へ」。自民党総裁選で岸田文雄首相を紹介する言葉として、よく登場したフレーズだ。一般的にもよく聞かれるが、その背景にある心理は何なのか。AERA 2021年11月29日号から。

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 その大学で、何を学べるか。いまの学生はそこをよく考えていて、以前より「学歴信仰」は薄れてきていると話すのは、中学受験専門塾スタジオキャンパス代表の矢野耕平さん(48)だ。

「たとえば『上智ならどこでも』と複数学部を受けるのではなく、日本文学を学びたいから早稲田や法政、学習院に加えて日本文学分野で有名な國學院や二松学舎大学も受ける。自分が何をやりたいかを模索して大学を受験する子がすごく増えました」

親世代の「高学歴」信仰

 なのになぜ、SNSやキャンパスで「○○落ち」は飛び交うのか。矢野さんは学生たちの親に注目する。大学受験戦争が最も過熱したのは「団塊ジュニア」が受験をした30年ほど前。いまの受験生や大学生の親は、まさにその世代。「高学歴」への思いが強いだけに、子どもが第1志望に不合格だったときに「本当はより高いレベルの大学に行けたかもしれないのに」という後悔を引きずり、それを子どもにぶつけてしまう。

「大学生とはいえ、まだ親の顔色を見てさまざまな価値基準が決まっていく面がある。抱かなくてもいいコンプレックスを抱いてしまった結果、ついポロッと『おれ、東大落ちなんだよね』という言葉が口をつく。そんな影響もあるかもしれません」

 若い世代にも影を落とす「学歴」へのこだわり。日本の社会は学歴を重要視しすぎであり、「学歴の境界線を溶かしていくこと」が必要だと訴えるのは、幅広い世代にSDGs教育を行う「World Road」共同代表で、青年版ダボス会議日本代表の平原依文さん(28)。「○○落ち」と話す大学生に、共感できるところはあると言う。

「受験は、この学歴社会の中で『成功』として認められるために必要な大きなステップであり、ゴール。『ウチの高校を出たならこの大学でしょ』など周囲の期待がありつつ、一生懸命努力したのに受からなかった悲しみの深さは想像に難くない。『○○落ち』には、『頑張ったけどだめだった』ということを、まずは伝えて認めてもらいたい。そんな思いを感じます」

 ただ、「言葉」は思考や行動につながるもの。「落ち」という言葉を心に残すよりも、言葉の転換をしてみては、と話す。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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