■小さくない社会的役割

 大学サークルは、マイナーなスポーツや文化活動を学生が経験する入り口となり、ファン層の確立にひと役買ってきた側面も見落とせない。

 金沢工業大学准教授で、自ら学内にオリエンテーリング・トレイルランニングクラブを創設し、オリエンテーリングの啓蒙に努めてきた円井基史さんは次のように語る。

「オリエンテーリングは、地図とコンパスを持ち、森の中の決められたポイントを通って速さを競う競技です。日本ではマイナースポーツで、競技人口のうち約6割を大学生が占めます。大学サークルは新規競技者の獲得と育成に大きく貢献しており、その存続はオリエンテーリング界全体に影響します」

 前出の明治大学教授の木寺さんは、東京大学の学生時代は映画研究会で活動した。

「今年のベルリン国際映画祭で銀賞を受賞した監督の濱口竜介はサークルの同期です。(濱口氏も)先輩に映画作りの技術を習い、楽しみながら活動したのが現在のキャリアにつながったと思います。商業ベースにのらないボランティアやスポーツ、文化を守ってきたのが大学サークルです。その社会的役割はけっして小さくないと思います」(木寺さん)

 東京で緊急事態宣言が明けた10月、都内私立大学のテニスサークル3年の男子学生(21)は4カ月ぶりに練習で汗を流した。男性は言う。

「デッドラインは来年3月。そこで合宿ができるかどうかが分かれ目です」

 コロナ前は、週4回の練習と試合、合宿を活動の柱にしてきた。とりわけ年に4回実施する合宿は一大イベントだ。

「旅行会社への手配などは引き継ぎのマニュアルがありますが、大事な部分はむしろマニュアル化できないところにある。僕たち3年が運営から離れるギリギリの3月に、どうにか後輩に合宿を経験させたい」

■サークル文化伝えたい

 一方、「サークルの入れ替わりは時代の定め」と冷めた目で見る人たちもいる。だが、男性は今後もテニスサークル自体がなくなることはないだろうと言う。

「テニスの好きな人たちが集まり活動すればテニスサークルはできます。しかし、50年近く先輩たちが工夫し、積み上げてきた、サークルのカラーである“文化”は伝えていかないと途絶えてしまう。自分も経験した、楽しさをどうにかつなげていきたい」

 朝日新聞と河合塾が、今年6~8月に共同で調査した「ひらく 日本の大学」で、大学の学長が選んだ「大きな課題」のトップは「課外活動の実施」(73%)だ。どう実現するか。大学だけでなく、行政や社会全体で考えていく必要がある。待った無しの分岐点に、いま差し掛かっている。(編集部・石田かおる)

AERA 2021年11月8日号