──一方の小川氏は、自称「パーマ屋のせがれ」で、選挙に必要とされる「地盤・看板・カバン」はありませんでした。

 名門・県立高松高校を卒業して東京大学に入学。卒業後は自治省(現・総務省)に入りました。03年に当時の民主党から“無謀な”出馬をし、05年に比例復活で初当選しました。現在5期目ですが、平井氏相手の選挙は1勝5敗です。

■統計不正問題で脚光

 何しろ小川氏は政治家の資質に必要とされる“清濁併せ呑む”といった面がまるでありません。党内での出世争いにも関心が薄く、議員同士の社交や遊泳術もまったく下手。永田町では真っすぐ過ぎる性格ゆえに「修行僧」と呼ばれ、珍種扱いを受けています。けれども、渾身の正論で居並ぶ閣僚たちに迫り、聞く者の心を奪った19年の統計不正問題の追及によって、「こんな政治家がいたのか」と、熱い期待を寄せられています。

──今年6月11日、平井氏がIT総合戦略室の会議で、東京五輪・パラリンピックで使う健康管理アプリの開発を巡り、請負先の企業を「脅しておいた方がよい」「完全に干す」などと発言していたという朝日新聞のスクープが報じられました。

 平井氏は釈明に追われましたが、四国新聞には「税金の無駄なくすための発言」との見出しが躍りました。その5日後、文春オンラインが新たな音声を公開し、平井氏の発言が官製談合防止法に違反する疑いがあると報じました。これらの報道によって、盤石と思われた立場も揺らぎ、香川1区は全国でも屈指の注目選挙区となったのです。

平井卓也(ひらい・たくや)/1958年、高松市生まれ。上智大学外国語学部卒。80年電通入社。87年西日本放送社長。2000年の総選挙で初当選。国土交通副大臣や情報通信技術(IT)政策担当大臣などを歴任。21年9月デジタル大臣(c)朝日新聞社
平井卓也(ひらい・たくや)/1958年、高松市生まれ。上智大学外国語学部卒。80年電通入社。87年西日本放送社長。2000年の総選挙で初当選。国土交通副大臣や情報通信技術(IT)政策担当大臣などを歴任。21年9月デジタル大臣(c)朝日新聞社

■平井氏は“ザ・政治家”

──大島監督は今回、平井陣営や平井氏本人にも取材をしています。直接会ってみて、平井氏とはどんな人物なのですか?

 まさか取材を受けてくれるとは思いませんでした。東京の議員会館で30分だけのインタビューでした。「なぜ君」について、「小川さんの知名度が上がったので、平井さんにとって迷惑ではなかったですか?」と聞くと、「タイトルもキャッチーだし、政治に関心を持つ層が増えるのは良いこと」と、大人の対応でした。

「脅しておいて」「完全に干す」発言に触れた時には語気が強くなる場面もありましたが、全体としては隙を見せず、“ザ・政治家”という印象でした。

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