小松沙季(こまつ・さき)/1994年10月生まれ。高知県カヌー協会所属。カヌーのヴァーは東京大会で初採用された種目(写真:日本障害者カヌー協会)
小松沙季(こまつ・さき)/1994年10月生まれ。高知県カヌー協会所属。カヌーのヴァーは東京大会で初採用された種目(写真:日本障害者カヌー協会)

 東京パラリンピックのカヌー新種目・ヴァーの小松沙季選手。実はバレーボールの「Vリーグ」でプレーしていた異色の経歴を持つ。そんな彼女ならではの強みとは。AERA 2021年8月30日号の記事から。

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 カヌーに超新星が現れた。

 女子ヴァー・シングルの小松沙季(26)。今年5月のワールドカップ(W杯)で5位となり、代表に内定した。競技を始めてわずか2カ月。本格的な体づくりをする間もなく、船や体を安定させるためのシートも関係者からの借り物だったというから驚きだ。

「まさか東京パラに出られるなんて自分でも思ってなかったので、びっくりしました」

 ヴァーは横に浮力体のついた船に乗り、水をかくブレードが片側にだけついたパドルで漕(こ)ぐ。最初は直進さえ容易ではなく、小松は「右に漕いでいるつもりなのに左に進んだ。真っすぐ進める気がしなかった」と振り返る。

 自身の強みを尋ねると、

「継続できる力、かな。それは持っているかなと思う」

 小学生でバレーボールを始め、大学卒業後はトップリーグ「Vリーグ」2部でプレーした経歴を持つ。身長165センチとバレー選手にしては小柄だ。

「高校に入るとき、その身長じゃ通用しないと周りから言われて。絶対にエースになってやると逆に燃えました(笑)。小さいのならその分跳ぶしかない。ジャンプに必要な筋力はジャンプして鍛えればいいと考えた」

 そこでやったのが縄跳びの二重跳び。練習後、毎日200回続けた。努力は実り、最高到達点は5センチ伸びて280センチに。身長170センチの選手と同等かそれ以上になった。垂直跳びは70センチと一流の跳躍力を身につけた。

 跳躍力と空中で体勢を維持する力。これらは腹筋・背筋もパワーの出力になる。つまり、小松はカヌーに必要な強靱(きょうじん)な体幹を二重跳び200回とバレーで養っていたのだ。

 チームを退団し指導者として活動していた2年前の6月、脊髄(せきずい)の炎症のため両足が不自由になった。軽度ながら両手にもまひがあり、特に左手の握力は戻っていない。だが、カヌーにひかれるものがあった。四万十川が流れる高知県四万十市出身とあって、身近な競技だった。

 5位となったW杯で1位との差は10秒を切っていた。メダルの期待がかかるが、小松はいたって冷静だ。

「私は人として成長するためスポーツをしている。ただ、どうせやるのであれば優勝を目指す」

 自分の力でバレー人生を切り開いてきたスピリッツを見せてくれそうだ。(ライター・島沢優子)

AERA 2021年8月30日号