

東京五輪が開幕する直前に、開会式担当者の過去の人権蹂躙が相次いで露呈した。コロナ禍での強行開催の上に不祥事続き。平和の祭典のイメージはますます傷ついた。
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「私は東京大会招致に反対していました。五輪開催を担うには、日本の民主主義に対する意識や人権感覚が国際水準に追いついていないと感じていたからです。しかしここまでとは……」
こう嘆くのは東京五輪・パラリンピック大会組織委員会理事を務める中京大学の來田享子教授(五輪史)だ。
組織委が東京五輪の開閉会式のショーディレクターを務める小林賢太郎氏(48)を解任した7月22日、橋本聖子会長は苦渋の表情で頭を下げた。小林氏はお笑いコンビ「ラーメンズ」時代のコントで「ユダヤ人大量惨殺ごっこ」と発言した動画がネット上で拡散。米国のユダヤ人人権団体から抗議を受けた。來田さんは言う。
「日本のエンターテインメント業界には人権侵害的なネタで笑いをとる風潮が以前からあり、その都度炎上してきたにもかかわらず、私たちは当事者の芸人をバッシングすることはあっても、問題の本質を深く追及せず消費し続けてきました。日本人が人権侵害にしっかり向き合ってこなかったことが、今回の状況を招いたと思います」
ただ、今回の動きには日本社会に漂う「底知れぬ悪意」も感じられる、と來田さんは言う。
「高い人権意識や倫理観から問題視する人がいる一方で、五輪をめぐる今のドタバタを炎上ネタとして面白がり、他人に降りかかる災厄を冷笑する人がいる。その分断が問題の本質的な解決の障壁になっているように思います」
小林氏解任の3日前の19日。開会式で楽曲制作を担当していたミュージシャンの小山田圭吾氏(52)が、同級生や障害者に対するいじめを過去の雑誌で発言していた問題で辞任した。
この人選を組織委はなぜ内部でチェックできなかったのか。來田さんは「佐々木氏辞任」の影響を要因の一つに挙げる。