高層ビルが立ち並ぶ北京の出勤風景。経済発展とともに、いい学校に入り、いいキャリアを積んで「勝ち組」にならなくては、という熾烈な競争が続く (c)朝日新聞社
高層ビルが立ち並ぶ北京の出勤風景。経済発展とともに、いい学校に入り、いいキャリアを積んで「勝ち組」にならなくては、という熾烈な競争が続く (c)朝日新聞社
高層ビルが立ち並ぶ北京の出勤風景。経済発展とともに、いい学校に入り、いいキャリアを積んで「勝ち組」にならなくては、という熾烈な競争が続く (c)朝日新聞社
高層ビルが立ち並ぶ北京の出勤風景。経済発展とともに、いい学校に入り、いいキャリアを積んで「勝ち組」にならなくては、という熾烈な競争が続く (c)朝日新聞社

「●(=身に尚)平族(寝そべり族)」と呼ばれる人たちが中国で注目を集めている。中国の急速な発展が生み出した存在で、中国社会の今後を左右することになるかもしれない。AERA 2021年7月26日号の記事を紹介する。

【写真】北京の出勤風景

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 中国共産党が結党100周年を迎えた7月1日。祝賀式典が開かれた北京の天安門広場は早朝から7万人の観衆で埋まり、この日を迎えた高揚感に包まれていた。労働者を表す鎌と槌をあしらった共産党旗をつり下げたヘリコプターが上空に現れると、中山服姿の習近平(シーチンピン)総書記(国家主席)は天安門の楼上から満足そうな表情をみせた。

 その後の演説で習氏はまず、歴代指導部が目標としてきた「小康社会」の全面的実現を宣言した。「小康社会」とは「ややゆとりのある社会」という意味で、中国社会から衣食住に困るような貧困がなくなったことを表す言葉でもある。

 習氏は列強による侵略を受けて半植民地状態だった中国を国内総生産(GDP)で世界2位の経済大国に引き上げたとして、共産党の実績を強調。「小康社会」の社会基盤を土台に、国力や影響力で世界をリードする「社会主義現代化強国」の実現という次の目標に向けてスタートを切ったと表明した。

「中華民族の偉大な復興という『中国の夢』は必ず実現できる!」

 演説の最後、習氏が珍しく拳を突き上げて声を張り上げると、天安門広場は歓声につつまれた。

 同じ日、中国最大都市の上海で、高層ビルを望むアパートに暮らす男性(24)は、その様子を伝えるニュースをスマートフォンで目にしたが、すぐに画面を消した。「●(=身に尚)平(タンピン)族(寝そべり族)」の自分には無縁な話だと思った。

■一生働いてもかなわない 努力する理由を見失う

「家を持ち、家族を養う、そんな『普通』の父親になりたいと以前は思っていました。それが中国の伝統的な考えだから……。でもそれは難しすぎると、今は思うようになりました」

 男性はこう漏らす。新疆ウイグル自治区の農村で生まれ育った漢族だ。賭け事が好きで、酒浸りだった父親とは折り合いが悪く、高校生の頃からアルバイトで自ら学費を稼いできた。安定した仕事につき、幸せな家庭をつくりたい。荒れた家庭で育った男性にとって、ささやかながらも確固とした目標だった。

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