菅義偉首相は昨年11月、国際オリンピック委員会のバッハ会長と「グータッチ」。中止・延期を求める声に耳を貸さず、有観客開催に突き進む (c)朝日新聞社
菅義偉首相は昨年11月、国際オリンピック委員会のバッハ会長と「グータッチ」。中止・延期を求める声に耳を貸さず、有観客開催に突き進む (c)朝日新聞社
AERA 2021年7月5日号より
AERA 2021年7月5日号より

 政府は根拠のない楽観論と精神論で、東京五輪開催に突き進む。その姿勢は太平洋戦争とよく似ている。AERA 2021年7月5日号で、菅政権と日本軍に共通する「失敗の本質」を専門家が指摘した。

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 なぜ、根拠のないご都合主義や精神論は、戦後75年以上も受け継がれているのか。

 太平洋戦争で「最も無謀な作戦」といわれたのが、ビルマ(ミャンマー)でのインパール作戦(44年3~7月)だ。作戦立案の段階から補給が困難なことなどから軍司令部のほとんどが反対した。だが、司令官の牟田口廉也(たむぐちれんや)中将は「必勝の信念」を主張し続け、戦局が悪化しても精神論で乗り切ろうと作戦を中止せず、兵力約10万人のうち約3万人もが命を落とした。

 一方で今年6月3日、コロナ対策分科会の尾身茂会長(72)が「パンデミックのところでやるのは普通ではない」と、現状での開催に警鐘を鳴らした。ところが翌4日、菅首相は五輪開催の目的を「安全安心な大会を実現することにより、希望と勇気を世界中にお届けできる」と書面で回答。「希望と勇気」という、精神論で頑張ろうというのだ。

 こうした科学的な根拠に基づかない楽観主義を、政治学者の姜尚中さん(70)は「念力主義」と呼ぶ。

「念力を唱えれば何とかなるというのと同じです。東条英機は『敵機は精神力で墜(お)とす』と言っていました。近代の総力戦で、最高責任者が平気でそう述べていたわけです。同じように菅首相も、コロナ対策は後手後手に回りながらカタストロフ(破滅)が起きるという想定がありません。『鬨(とき)の声』をあげて突き進めば何とかなると思っています」

 姜さんが、念力主義が続く背景にあると指摘するのが「非連続的な進化」だ。この言葉は、日本軍の組織的欠陥や病理を考察した名著『失敗の本質』(1984年刊)に出てくる。そこでは「日本軍の組織的特性は、連続的に今日の組織に生きている面と非連続的に革新している面との両面」があり、日本の政治的組織については「日本軍の戦略性の欠如はそのまま継承されているようである」などと記す。姜さんは、その概念を今の政治になぞらえてこう話す。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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