現代では、candyが思い浮かびます。アメリカ・カナダでは、candyは飴だけではなく甘いお菓子全般を指します。キャラメルやチョコレート、トフィーやジェリービーンズなんかも、全部candy。ただ、お菓子といっても感覚的にはポケットに入れて運べるような駄菓子で、クッキーやマフィンなどの焼き菓子、アイスクリームなどの冷凍菓子はcandyとはいいません。つまり、大阪でいう「飴ちゃん」の概念に近いのか……? ともかく、アメリカ人に「candy買ってきて」と言われたら、「どんな種類の?」と訊き返した方が無難です。でないと「飴じゃなくてチョコレートの気分だったのに~!」とがっかりされてしまうかもしれません。

 アメリカの南部に限れば、同じく気を付けなければいけない単語がteaです。appleやcandyとは逆で狭義の意味になりますが、アメリカ南部でteaといえば、ただのお茶ではなく「お砂糖をたっぷり入れたアイスの紅茶」を意味します。アメリカ南部の人は冷たい飲み物、そして甘いものが大好きなのです。もし甘いアイスティー以外を頼みたかったら、unsweetened tea(無糖のアイスティー)、またはhalf sweetened/lightly sweetened tea (微糖のアイスティー)、そしてアイスが嫌ならhot tea(温かいお茶)と指定しなければいけません。一度ファストフード店で無糖の温かい紅茶を注文したら、「砂糖も入れずにわざわざ温かくして紅茶を飲むなんて……いったい何のために?」と訊かれたことがあり、南部の人のtea好きを実感しました。

 お茶といえば、日本でも似たような経験をしたことがあります。私は中学・高校時代を緑茶の生産量日本一である静岡県で過ごし、お茶といえばすなわち緑茶だと思い込んでいたのですが、大学進学を機に大阪府へ引っ越してお茶にもいろいろな種類があることを実感しました。お店で「お茶ください」と注文したら、「緑茶と玄米茶とほうじ茶がありますけど、どうしますか?」と訊き返されたのです。ことばは文化ですから、異なる文化を共有しているときは特に、ひとつの単語が何をどこまで意味するかていねいに確認したほうがいいのかもしれません。それは英語と日本語の間だけでなく、日本語の間でも同じでした。

 いまでも私は、食事の支度ができたときに「ごはんですよ~!」と子どもを呼び、それがピザやパスタだったときに「なんだ、ごはん(お米)じゃないのか」とがっかりされることがあります。「ごはんですよ~! お米のほうのごはんじゃなくて、食事ができたってことですよ~!」といちいち言わなければいけないのか。ちょっと面倒だけど、それでも文化を横断する生活は、毎日が発見にあふれていて面白いです。

〇大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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大井美紗子(おおい・みさこ)/ライター・翻訳業。1986年長野県生まれ。大阪大学文学部英米文学・英語学専攻卒業後、書籍編集者を経てフリーに。アメリカで約5年暮らし、最近、日本に帰国。娘、息子、夫と東京在住。ツイッター:@misakohi

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