■人生が深くなった

芳根:私は日常生活で、「自分は生きてる!」と思うことがあまりなかったんです。だけど、この作品を撮り終えてから節々に感じるんです。今まで生と死は一直線上の対極にあると思っていたのが、“Arc”というタイトルにもあるように、弧を描いて隣同士にあると感じたら、自分の人生が深くなった気がしました。生きていることのすてきさを噛み締めるようになったんです。この年齢でそれを感じられたのは、今後の自分にとっての強みだと思います。

――芳根は、「こんなに難しい作品に挑戦させてもらえたことは今でも夢のよう」と振り返る。

芳根:デビューしてしばらくオーディションに受からない時期があって、マネージャーさんに「やる気があるのか?」と怒られたことがあるんです。それで悔しくて頑張ったところもあって。だから、石川監督に信頼してもらえるのはすごくうれしくて、10代の自分に教えてあげたいくらい。「私はこういう表情ができます」という自分にとってカタログのような意味もある作品だと思うので、一層これからの自分が楽しみになりました。

石川:本当にいろいろな年代のリナが存在していて、少なくとも自分が提案できる芳根さんは全部出せた気がしています。数年は更新しないでほしいと思うくらい(笑)。いろいろな見方ができる作品ですが、芳根さんの映画であることは間違いないと思っています。僕自身にとっては、前2作と比べると、企画から自分発信なところが強くて、ヒットする・しないとは関係なく、「これが作りたい」という熱量の作品なので、観てくれた方の反応が怖いですね(笑)。

芳根:私、勝手に「Arc アーク」は石川さんの実験作品だと思っているんです。石川さんがやりたいことを詰め込んだ作品に参加させてもらったのが、すごくうれしい。

石川:ありがとうございます(笑)。確かに自分のおもちゃ箱という感じもあって。そこに芳根さんや小林薫さん、岡田将生さん、寺島しのぶさんといった好きな俳優さんたちに入ってもらって、好きなようにお家を建てられた。つくづく幸せな職業だと思いましたね。

(構成/ライター・小松香里)

AERA 2021年6月21日号