AERA5月31日号から
AERA5月31日号から

 通勤時間を気にせず家探しができるようになった今、狙い目は快速・急行停車駅の「隣」だ。AERA 2021年5月31日号は、そのメリットを紹介する。

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 京王線の例をみよう。

 府中駅(東京都府中市)は、新宿駅まで特急で20分と便利な場所にある。それだけ人気も高く、中古マンションの平均価格は4047万円に達する。

 それが、ひとつ手前の東府中駅なら、3211万円にダウンする。新宿駅に出るには調布駅で特急に乗り換えなければならず、府中駅よりも10分余計にかかる。でも、その時間差が800万円超の違いになる。その程度は仕方ないと割り切れるだろうし、コロナ禍で出勤回数が減っていれば、ほとんど気にならない範囲ではないだろうか。

 確かに府中駅前には「武蔵府中ル・シーニュ」、伊勢丹跡地の「ミッテン府中」など大規模商業施設が集積。近くには府中市役所や府中警察署といった公共施設がそろっていて便利だ。だが実は、東府中駅前からは一本道を歩いて10分ほどで府中駅に出ることができる。天気のいい日には、散歩がてら買い物に出かけられ、かえって健康にもいいかもしれない。

 快速・急行停車駅の隣駅には、価格の安さだけではなく、さまざまなメリットがある。

 大きな駅ではないので、駅周辺がゴミゴミしておらず比較的治安や防犯面でも安心できる。女性の一人暮らしでも心配が少ないだろう。また、駅前に大きな商業施設がない分、地元の商店が頑張っている。店舗数は多くなくても、活気のある商店街が残っているところも多い。たいてい地域密着型の飲食店が根を張っていて、なじみになれば店主や常連客と会話がはずむ。コミュニティーに入っていきやすいという点では、大規模商業施設だらけのターミナル駅だとあまり期待できないだろう。

 駅から少し離れれば、閑静で緑豊かな住宅地が形成されていることが多い。少し歩けば、大きな公園もあったりする。小さな子どものいる子育て世帯には、むしろこうした場所のほうがいいのではないだろうか。(住宅ジャーナリスト・山下和之)

AERA 2021年5月31日号より抜粋