※写真はイメージです(gettyimages)
※写真はイメージです(gettyimages)

 占いブームが日本に再び到来。関連書籍の売れ行きやイベント来場者数なども好調だ。盛り上がりを見せる占いの魅力、そしてその本質とは。「占い」を特集したAERA 2021年4月12日号から。

【ゲッターズ飯田さん、星ひとみさんなど、人気占い師たちの印象に残った言葉はこちら】

*  *  *

 都内在住の会社員の女性(50)が友人(41)とZoomでオンライン飲みをしていた時のことだ。ふと思いついて、言ってみた。

「タロット占いが少しできるんだけど、占ってあげようか?」

 一般に、「占い」に対する人の反応はさまざまだ。興味がある、楽しそう、いかがわしい、胡散臭い──。もしもドン引きされたら、すぐに話題を変えるつもりだった。だが、相手は面白がって乗ってきた。

 女性はこの日は在宅ワークで、人と話すのはこのオン飲みがはじめて。誰かを占うのも久しぶりだ。タロットカードを引っ張り出して、仰々しくカードを切り、画面越しの相手に「これは私じゃなくて、カードが言っているんだけど」と勿体をつけると、場は大いに盛り上がった。

「カードを読むんですが、相手を知っているから、ちょっと盛って言いますよね。大したことを言ったわけではないけど、『楽しかった』と言われて、うれしかったですね」

■内面の言及でアガる

 女性は若い頃から占い好きで、占い雑誌を読み漁った時期もある。なんとなく、手相とタロットができるようになったが、話のネタに友人たちを占うと、けっこう当たると話題になって、出身地にかこつけて「大分の母」とあだ名がついたこともある。

 一方の占われた女性は、こう語った。

「私がどんな人でどんなところがあるかなんて、普段誰も言ってくれない。自分の内面が注目されたみたいで、ちょっとアガったんですよね」

 昨年から続くコロナ禍の中、日本に占いブームが訪れている。

 2020年12月31日から21年1月11日までオンラインで開催された日本最大級の占いイベント「占いフェス」は、海外からの訪問も含め、来場者数6万4017人と過去最高を記録した。

 占い関連書籍の売り上げも好調だ。20年9月に刊行した、人気占い師・ゲッターズ飯田さんの『五星三心占い』21年版は、現在までに累計発行部数166万部超を記録している。前年度版と比べ、書店では200%近い売り上げだ。

 日本唯一の占い専門誌「マイカレンダー」編集長の山田奈緒子さんは言う。

「確かに、この1、2年で市場は広がった感触があります。弊社では編集プロダクションとして占い本の制作も請け負っていますが、依頼は倍くらいに増えました」

 同誌の昨年秋号の特集は「タロット占い」で、読者が仕組みを理解し、実践できる入門書のような内容も兼ねた。Amazonからの受注は、従来の3倍に増えたという。

「タロット占い自体の人気もあるでしょうが、コロナ禍の影響が大きいと思います。タロットカードの卸会社からは、自粛期間中は以前の3倍ほど売り上げが増えたと聞いています。家にいる時間が増えて、カードに手を伸ばすのかもしれません」

■自分で占いをしたい

『占いをまとう少女たち 雑誌「マイバースデイ」とスピリチュアリティ』の著書があり、占いやスピリチュアルとその社会背景に詳しい立教大学社会学部兼任講師の橋迫瑞穂さんは、近年の変化を、「自分で占いをしたい、学びたい」という人たちの出現だと指摘する。カルチャー教室のようなノリで3、4回のコースで学べる手軽な教室も増え、習い事化しているという。確かに身の回りの人から「今タロットを習っている」と言われてもそれほど驚かないし、筆者のかつての女性上司も占星術を習った経験を持っていた。

 占いができれば、冒頭のように飲み会の話のネタに気軽に楽しむこともできるし、コミュニケーションツールにもなりうる。

 これまでにも、日本には幾度か占いブームが訪れている。戦後初となる占いブームが訪れたのは、『易入門』がベストセラーになった1961年。70年には週刊誌ananが創刊し、日本初となる12星座占いの連載が始まった。石油危機や第2次オイルショックには「天中殺」ブームが重なり、バブル崩壊後の30年間は、入れ代わり立ち代わりスター占い師が登場していることがわかる。

 そして、プロの占師と素人を分けるのは、「人を引きつける言葉を生み出せるかどうか」だ。

「カードを解釈したり、星を読んだりという勉強はできても、人を引きつける言葉を生み出すのは難しい。言葉の使い方の巧みさが目立つのは、鏡リュウジさん、石井ゆかりさん、ゲッターズ飯田さん、しいたけ.さん。それぞれ“ならでは”のテキストの力があり、それを享受している読者は多いですよね」

 いずれも近年占い界を席巻してきた人気占師たちだ。

 人気占い師たちの言葉は、確かに強い。

 では、占いとはいったい何なのか。

 占星術研究家・翻訳家で、人気占い師の草分け的存在でもある鏡リュウジさん(53)は、『占いはなぜ当たるのですか』という著書を持つ。99年に初版を刊行、増補改訂版を昨年8月、出版した。一見刺激的なタイトルは、鏡さんの周囲の「よくある反応」に由来する。

「当時の担当編集者といろいろな職種の人と知り合う機会があり、『鏡くんがいるからホロスコープ(占星術で各個人を占うための天体の配置図)を作ってもらおうよ』という流れによくなったんです」(鏡さん)

 占いに関心のない人も当然いて、「いいよ、俺は」と及び腰になる。ところが、実際にホロスコープを作り、そこから読み取った内容を話し始めると、次第に顔色が変わり、「なぜ当たるの?」「どうしてわかるの?」と聞いてくることが多かった。

 だが、鏡さん自身は、占いでクローズアップされがちな「当たりはずれ」に関しては、実は懐疑的なのだという。

 かつて占いと科学は不可分で、どこに首都を置くか、いつ儀式を行うかなど、国家や都市の重大事に関わってきた。科学と占いが、科学から占いをそぎ落とす形で分かれてくるのは16、17世紀になってからだ。さらに、19世紀以降になると、占い対象が個人の内面にも焦点を合わせるようになってきた。

「性格描写や心理描写が分厚くなってきたのもこのころです。占いは『予言』のツールから、『心理占星術』の意味合いがクローズアップされるようになりました」(同)

■人生には「意味がある」

 歴史的に見て、もちろん、「当たりはずれ」は占いにとって重要な要素のひとつだ。だが、物事に物語をつけていくという側面も、「古来からあった」という。

 占いが果たす役割について、鏡さんはこう考えている。

 うまくいかないと思うとき、占いという非日常の方法で考えれば道が開けることもあるのではないか。星の運行という別の秩序と紐づけることで、人生が偶然の集積ではなく、意味があると体感できるのではないか。

「占いは人生に物語をつけてあげるもの。西洋占星術には物語のストックが膨大にあって、占師はストックから探りながら、占われる人とともに物語を紡ぎなおしていくんです」

 そして、科学との関係性をこう語る。

「占いは科学的には根拠がないものですが、人生の多くは科学的エビデンスだけでは捉えられない。恋愛も職業選択も究極的な意味では合理的には選択できません。でもそれは単なる愚かさではなくて、逆説的に高度で複雑な知性の働きではないでしょうか」

■占いは知的な遊び

 一方で、占いには、負の側面として、金銭をつぎ込む・だまし取られるといった問題、依存性の問題がついてまわる。胡散臭いと眉をひそめる人も一定数いる。

 だが、前出の橋迫さんは、その面だけしか見ずに占いを評価することには疑問があるという。

「毎日仕事して、生活して、人間関係に気を使って、人生このままいくのかなと思ったときに、カードとか星の位置とか、違う角度から自分の人生を見せられると、パッと色づくというか、立体的に見えるんだと思うんです。人生が見通せてホッとするというより、自分の人生が別の角度から見える瞬間。それを受け止める楽しさと気持ち良さが占いの醍醐味だし、おそらく今後も色あせることはないのだと思います」

 マイカレンダーの山田さんも同様に、占いは「知的な遊び道具」だという。

「『今日はてんびん座の満月で、パートナーシップ運があがる日』と思えば、心にメリハリができるし、疲れ果てている時も少し元気が出る。自分の日常にドラマを持たせることで、明日に向かう背中を押してくれます」

 さて、山田さんによると、星占いでは、昨年12月22日、約200年に一度の大イベントがあったという。

「木星と土星が重なる『グレート・コンジャンクション』が起こったのですが、そこで『地の時代』から、『風の時代』になったとされています」

 地の時代は経済や権力、安定や積み重ねに価値があるとされる。末期はそれが腐敗したり、限界がきたりして崩壊していく。一方の風の時代は、場所や財産を問わず、人とのつながりが重視されていくという。

 権力は腐敗し、年功序列は通用しないケースが増え、コロナ禍でリモートワークの波が押し寄せ、人とのつながりに飢えている──。世相と照らし合わせると、「なるほど」となる人は多いのではないか。いつの間にか、あれこれ思いを巡らしていた。(編集部・高橋有紀、ライター・羽根田真智)

AERA 2021年4月12日号