この頃から、韓国の人びとにスピード第一という意識が定着していったとされる。実際、昨春ごろから、韓国世論は「一刻も早くワクチンを入手せよ」という声で一色になっていた。国内臨床試験を行うかどうかの判断も、こうした、よく言えば迅速果敢、悪く言えば猪突(ちょとつ)猛進ともいえる韓国の文化が新型コロナ対策にも影響しているようだ。

■13ケタの住民番号

 また、いち早く獲得したワクチンの素早い接種に役立っているのが、住民登録番号だ。やはり、朴正熙政権時代に北朝鮮からのスパイを発見するためなどとして、68年から制度化された。韓国の人びとには13ケタの固有の番号が与えられている。韓国の知人は「住民登録番号には、様々な個人情報がぶら下がっている。誰でも閲覧できるわけではないが、権限があれば、その個人がいつ、どの病院でどんな治療を受けたのかという情報も引き出すことができる」と言う。

 年齢や既往症の有無などを迅速に判断できるため、ワクチン接種のスピードが上がるというわけだ。韓国メディアによれば、韓国政府は、ワクチン接種の証明書をデジタル化し、携帯電話のアプリを通じて入手や提示ができるようにする方針だという。

 日本は現在、飲食店の営業時間を制限する代わりに、一律の支援金を支給している。ただ、専門家の間では「あまりに硬直的で無駄も多い。事前に抗原検査を受ける仕組みにして、柔軟に営業を認めても良いのではないか」という声も出ている。韓国では今後、飲食店に入店する前に、携帯電話を通じて接種証明書を提示することで、柔軟な利用が可能になりそうだ。(朝日新聞編集委員・牧野愛博)

AERA 2021年4月5日号より抜粋