「でも受託業務を一生の仕事にしたいわけではない。『ではロボットでどんな新しい価値を生み出せるか』と考え、実現化したのが『root C』です」

 root Cは、AI搭載の無人カフェロボット。ユーザーは専用アプリから事前にオーダーし、通勤途中の駅構内やオフィスビルなどで、淹れたての上質なコーヒーを待たずに受け取れる。中尾さんは、root Cの着想からわずか3カ月で試作機を完成させ、19年8月には大阪の南海難波駅などで実証実験を実施。都内のオフィスビルでも実証実験を繰り返し、今夏には全国主要都市の20駅でサービスを展開する予定だ。

「私たちはロボットによって、“あらゆる業界を無人化する”ことを掲げていますが、労働者の仕事を奪うわけではありません。低賃金、長時間労働の搾取型労働をロボットに代替させ、多くの人がより付加価値の高い仕事に就き、人間らしい時間を過ごせる社会を実現していくことが目標です」

 中尾さんは、実業とともに研究開発も学びたいと考え大学に進学。しかし大学で習う内容は基礎的なことばかりで、「研究機関であるべき大学が、教育機関に偏り過ぎていないだろうか」と感じたという。イノベーティブな起業家を増やすのであれば、高度な能力や技術をもつ学生が、大学の研究リソースに自由にアクセスできる環境を整えることも必要だ。

■学生の身分は両刃の剣

 一方で、大学と学生の連携が好循環を生み出した例もある。

 20年4月に、名古屋大学・名古屋工業大学発ベンチャー企業として認定された「ジークス」代表の村上嘉一さん(21)は、「より包括的な形で医療分野に貢献したい」と医療系ITでの起業を決心し、名古屋大学情報学部へ進学。19年9月に名工大の仲間らとジークスを立ち上げた。

「当初は、総合診療のITサービスを考えましたが、尊敬する医師と議論する中で、小児医療に多くの課題があることを知りました。例えば、母親の10人に1人が産後うつになると言われていることや、最近はコロナ禍でママ友や親にも気軽に悩みを相談できなくなり、孤立感を抱く母親が増えています」

 こうしたコミュニケーション阻害から生じる問題を解決するため、ジークスは大手医療法人「葵鐘会(きしょうかい)」と共同で、子育て支援アプリ「あんよ」の開発を進めている。

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