「『あんよ』では、よく見られる乳幼児の行動や病症について、小児科医がQ&A形式で正確に回答してくれるサービスや、治療が必要な赤ちゃんがスムーズに受診できるシステムの構築を進めています」

 これらが大学発ベンチャーに認定されたことで、「企業からの信頼や資金援助は得やすくなった」と村上さんは語る。一方で、「学生という身分は両刃の剣でもある」と話す。

「“学生起業家”の肩書は、教育の枠組みでは高評価を受けます。しかし実際のビジネスシーンでは、むしろ学生だからと不当な扱いを受けることもあった。起業後の実務面をサポートする仕組みがもっとあればいいのになとは思います」

本市の崇城大学発ベンチャーで、光合成細菌の培養キットを開発・販売する「Ciamo(シアモ)」代表の古賀碧さん(26)は、大学2年次に学内の「起業部」へ入部したことが起業のきっかけとなった。

「故郷の人吉・球磨(くま)に帰省したときに、閉店しているお店が増えていることに気づき、新事業を立ち上げることで地元の魅力をアピールできないだろうかと考えました」

■バイオ工学技術を応用

 第1弾として、古賀さんは友人と協力し、地元名産の球磨焼酎と果物を使ったリキュールを開発。さらに複数の蔵元にヒアリングをする中で、「焼酎粕」の処理に頭を悩ませていることを知った。

「製造過程で生じる焼酎粕は、リサイクル業者に有料で引き取ってもらうしかなく、年々処理費が上がり蔵元の経営を圧迫していました。そこで私の専攻のバイオ工学の技術を応用して、焼酎粕を有効活用できる方法がないか研究を始めました」

 目をつけたのが、作物の生長を助けるために農家で使われている光合成細菌だった。試しに焼酎粕を餌として与えたところ、増殖に成功。全国50カ所の土から光合成細菌を採取して改良を重ね、従来の10分の1以下の価格で光合成細菌を利用できる培養キット「くまレッド」を開発した。昨年7月に人吉市を襲った豪雨災害で、製造場が建物ごと流される被害に見舞われたが、現在は大学のファンドから資金提供を受けながら、学内の研究室で製造・販売を続けている。

「今後は光合成細菌を水産業に応用し、地場産業である車エビの養殖を活性化。その後、東南アジアのエビ養殖に展開していきたいです」

(ライター・澤田憲)

AERA 2021年3月29日号より抜粋