「一人ひとりのつながりや成長に着目し、コミュニティーを温めるのが主眼です。そうするとプロジェクトはどんどん生まれてきます」(大澤さん)

 RINGSでは誰がどんなプロジェクトを提案してもいい。カーボンニュートラルに取り組むプロジェクトもあれば、文字について徹底研究するプロジェクトもある。それぞれ企業などに持ち掛け、共同研究を進めている。

 大澤さんが日本大学文理学部を選んだのには理由がある。日本大学はいわば「偏差値50の大学」だが、これは既存の価値軸で括られた評価にすぎない。偏差値に代表される既存の価値軸ではまだ認められていない人たちと、世の中にまだない価値を創生できれば世界は変わる、と大澤さんは思ったのだ。

 日本大学は国内で最も学生数が多く、中でも文理学部は18の異なる分野の学科が一つのキャンパスに集約されていることもチャンスと捉えた。

「間口の広いところでイノベーティブなことをやると、それに反応して感度の高い人が吸い込まれる流れが生まれます。価値創出の出発点としてはこれ以上ない環境だと考えました」(同)

 学生には思い切り爆発してください、と呼び掛けている。その破片の一つがドラえもんにも連なる、との考えだ。

「ドラえもんをつくるために100人の組織をつくるより、そうやってつくるドラえもんのほうが価値があり、成功率も高いと見込んでいるんです」(同)

 だが、大澤さんは研究者としても教育者としても入り口に立ったばかり。斬新なアイデアを生かすも殺すも上層部の判断次第だったはずだ。

 大澤さんからRINGS構想を聞き、学部長や学長につないだのは同学部次長の谷聖一教授(57)だ。産官学のプロジェクトに学生が対等な立場で加われるのが魅力と感じたという。谷さんは「同僚としてまだ1年たっていませんが、私の中では今は大澤先生といえばドラえもんをつくる人というのが当たり前になっています」と笑みをこぼす。
 

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