選んだのが日本大学文理学部の教員だ。20年4月の採用とともに研究室も与えられた。だがドラえもんをつくるには、社会全体を巻き込む態勢が必須。その基盤が昨年12月に設立された日本大学文理学部次世代社会研究センター(RINGS)だ。

 センター長を兼務する大澤さんは、コンセプトをこう説明する。

「従来の組織や産官学連携のほとんどはプロジェクトベースで作られてきましたが、RINGSではコミュニティーをベースにしています」

 例えば多くの会社では、利益を上げるために必要な部署が設置され、その部署にふさわしい人材を採用したり、育成したりする。そうなると、組織の目的を忖度してコマとして尽くす人材が求められる。これに対し、大澤さんが目指すのはそれぞれが自分の目的を追求する、「ありのままの一人ひとりの総体としての組織」が生むイノベーションや価値創出だ。大澤さんらは個人をウニのトゲになぞらえ、これを「ウニ型組織」と名付けている。

「みんながばらばらの方向を向いているのが美しさの根源であり、根っこではしっかりつながっていて、中においしいものが詰まっている」(同)

■価値創出の出発点として日大はこれ以上ない環境

 大澤研究室研究員兼RINGSスタッフとしてウニ型組織の具現化を担う杉浦愛実さん(28)はこう補足する。

「例えば100人いたら、100人で100人の夢をかなえ、自己実現を達成する組織です。一人ひとり異なる夢や目的が起点になれば、組織が生む価値も多様化できます」

 大澤さんと大学で同学年だった杉浦さんは、価値基準を覆す発想に共鳴し、大手広告会社から転職した。大澤さんは学生時代から「人を巻き込みつつ幸せにする人」だったと振り返る。

 RINGSのコミュニティーの基盤は、学内から選抜された学生40人のほか、学外のパートナーや専門性をもつプロボノなど。パートナーには、サイバーエージェントやソフトバンク、ベネッセ、愛知県豊田市などそうそうたる顔ぶれが並ぶ。RINGSはパートナーから資金を得て運営するシステムだ。

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