元朝日新聞記者 稲垣えみ子
元朝日新聞記者 稲垣えみ子
数年前から挑戦していた編み物がついにこのようなところまで! これでノー暖房の冬も安心!(写真:友人撮影)
数年前から挑戦していた編み物がついにこのようなところまで! これでノー暖房の冬も安心!(写真:友人撮影)

 元朝日新聞記者でアフロヘア-がトレードマークの稲垣えみ子さんが「AERA」で連載する「アフロ画報」をお届けします。50歳を過ぎ、思い切って早期退職。新たな生活へと飛び出した日々に起こる出来事から、人とのふれあい、思い出などをつづります。

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 ようやく「家を売る」編を再開するつもりだったんだが、あまりに気になることがあったので今回はそれを書く。

 新型コロナウイルスの広がりで、検査で陽性とされても入院できないケースが問題になっている。となれば自宅療養ってことになり、先週のアエラでもその心構え、準備すべき物などが特集された。

 それはそれでいいんだが、自分の問題として考えた時、私の心配は全く別のところにある。

 そもそも私は入院したくない。自宅療養を強く望む。

 一人暮らしなので面倒を見るべき家族がいるわけではない。でも入院はいや。我が儘である。吹けば飛ぶような我が人生観の問題なのである。

 なにもコロナに限った話ではない。私もいずれは老いと病を得て死に至るのだが、その全ての過程において、できれば入院と無縁でありたいとかねて強く願っているのだ。理由を一言で言えば、私なりに様々な病院死に接し、自分の生命と生活の「締めくくり」を、最後の最後になって現代社会のシステムに丸投げすることへの強い違和感を抱くに至ったのである。

 ボーッとしてたらシステムに取り込まれるゆえ、日頃からシステムと距離を保つため可能な限りのストイックな生活を志している。一人暮らしでもできるだけ迷惑をかけることなく「在宅死・平穏死」を果たすことが目標だ。で、奮闘努力の甲斐あって、そのようなことも十分可能ではないかと実感する今日この頃なのである。

 これはそれほど突飛な考えでもないはずだ。世の少なからぬ人が「できるなら最期は自宅で」と望んでいる。

 だがここへ来て突然雲行きが怪しくなった。ことコロナに感染した場合、入院拒否は懲役対象という法案が出た。野党の反対で消えたものの「差別を助長する」「保健所の負担が増す」などが理由で、私の人生観など歯牙にもかけられちゃいねえ。いやはや。いつか死に方を選ぶとお縄になる時代が来るのやもしれぬ。その際は獄中からコラムを書こうと思う。

稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

AERA 2021年2月8日号

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稲垣えみ子

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稲垣えみ子(いながき・えみこ)/1965年生まれ。元朝日新聞記者。超節電生活。近著2冊『アフロえみ子の四季の食卓』(マガジンハウス)、『人生はどこでもドア リヨンの14日間』(東洋経済新報社)を刊行

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