「最後に家族と海に行きたい」 コロナ禍でも終末期の患者の願いをかなえる人々 (1/4) 〈AERA〉|AERA dot. (アエラドット)

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「最後に家族と海に行きたい」 コロナ禍でも終末期の患者の願いをかなえる人々

荒川龍AERA
岡山県瀬戸内市の「牛窓オリーブ園」。都内から帰省した女性は母親と、同園内にあるカフェ2階からの眺望を満喫。思い出深い場所へのラストドライブになった(写真:中村幸伸医師提供)

岡山県瀬戸内市の「牛窓オリーブ園」。都内から帰省した女性は母親と、同園内にあるカフェ2階からの眺望を満喫。思い出深い場所へのラストドライブになった(写真:中村幸伸医師提供)

比留間亨一さん(前列右)は、テレビ局勤務の頃から家族ぐるみの交流を続けてきた元上司の鈴木茂夫さん(89)と固い握手(写真:比留間さん提供)

比留間亨一さん(前列右)は、テレビ局勤務の頃から家族ぐるみの交流を続けてきた元上司の鈴木茂夫さん(89)と固い握手(写真:比留間さん提供)

故・小野由紀子さんは蒲郡市のホテルで近くにある観光名所から戻った孫に、「海の匂いをかがせて」と頼み、その手を自身の鼻に近づけてみせた(写真:小野さん提供)

故・小野由紀子さんは蒲郡市のホテルで近くにある観光名所から戻った孫に、「海の匂いをかがせて」と頼み、その手を自身の鼻に近づけてみせた(写真:小野さん提供)

AERA 2021年2月1日号より

AERA 2021年2月1日号より

 移動や病院での面会が厳しく制限されているコロナ禍。一度入院すると、家族や友人と面会もできずに亡くなるケースもある。困難な状況のなか、効率を度外視してでも患者のために奔走する人がいる。AERA 2021年2月1日号で取材した。

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「先生、ありがとうございました。いい冥土のお土産になりました」

 ストレッチャーに乗せられた62歳の女性は、中村幸伸(ゆきのぶ)医師(43)にそう笑顔を向けた。2020年10月下旬、岡山県瀬戸内市のカフェの2階で、瀬戸内の海と島々を晴天の下で一望できた。

 女性は末期の大腸がんと診断され、同年7月下旬に都内の病院に入院。10月に入ると、最期の時間をどこで過ごすかを考える局面を迎えた。彼女は家族とも相談。移動中に体調が急変して命を落とすことも覚悟で、約40年暮らした都内の自宅ではなく、母と妹が暮らす岡山の実家を選んだ。その2日後には、看護師による介護保険外の外出支援サービス「かなえるナース」に依頼し、看護師2人の同行で新幹線で岡山に戻ってきていた。

 中村医師が女性の妹から「姉を自動車に乗せて移動させられますか?」と、尋ねられたのは前日の診療時。姉が行きたいカフェがあるという。大丈夫と即答した中村医師は、明日なら自分も休みなので同行できると伝えた。

 だが、女性は即座に断った。中村医師は遠慮がちな女性の人柄に触れていたから、とくに無理強いはしなかった。

「先生、やっぱり明日はご同行をお願いしても、よろしいでしょうか」

 妹から再び中村医師に電話が入ったのは、次の訪問先に向かう車中だった。

 中村医師は09年に岡山県で初めて、終末期対象の在宅診療専門所「つばさクリニック」を開業。24時間365日体制で1500人以上を看取ってきた。

「病院では無表情だった方が、自宅に戻られると笑顔を見せることが多く、私たち在宅医のやりがいでもあります。命がけで岡山に帰ってこられた女性の希望も、かなえたいと思いました」

 普通の医師なら止めるかもしれないが、中村医師は迷わなかった。急きょ決まったカフェ訪問には、訪問看護師、ケアマネジャーら総勢14人が同行した。

「女性は医療者には遠慮がちですが、妹さんには『先生より先にお茶を飲んじゃダメでしょ』と注意するなど、長女然として振る舞われていました。病院では患者でも、実家に戻ると家族内での役割を取り戻し、それが生きる力にもつながります。でも、カフェに行くことについては、妹さんから、『先生に甘えられる最後のチャンスよ!』と言われ、背中を押されたようですよ」(中村医師)


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