そこで重要になってくるのが、社会課題をテーマに、プロジェクト型、探究型の学びを日常化していく取り組みだ。

「床を踏むと発電し、歩くだけで電気が作れる部屋」「浴槽に寝転べるようにして、水の量が少なくてもゆったりすごせる浴室」といった「あったらいいな」のアイデアが生徒たちから次々と出てくる──これは横浜市立南高校で、昨年11月14日に行われた「TRY&ACT企業講座」の一コマだ。

 同校は12年に公立中高一貫校として附属中学を併設。15年に文部科学省からスーパーグローバルハイスクール(SGH)の指定を受けたことをきっかけに、探究型のカリキュラム「TRY&ACT」を導入した。

■教科横断型の探究活動

 1学期は、英国のヴィーガン(完全菜食主義)推進団体の主宰者や国連大学の教員などを招いて講義を行い、SDGs(持続可能な開発目標)への理解を深めた。カリキュラムを担当する国際企画部主任の蛭田祥友(ひるたよしとも)教諭は「SDGsは感性が豊かな高校生にマッチした研究テーマ。特に昨年は、新型コロナや豪雨災害が起こり、SDGsについて考えさせられた」と話す。

 企業講座はその一環で、1年生を対象に昨年から、複数の企業の協力を受けて開講している。前出のアイデアは、賃貸経営事業を展開する大東建託グループのワークショップで出てきたもの。社員が企業の取り組みを紹介した後、生徒が5~6人のグループに分かれ「社会課題を解決する賃貸住宅」について話し合い、発表した。

 なぜ、公立高校で企業講座を企画したのか。蛭田教諭はその狙いをこう話す。

「SDGsの実現には、企業が重要な役割を担っています。生徒たちには、学校とは違う社会的な視点でSDGsについて考えてほしいと思いました」

 同校では、中学から普段の授業にグループワークを取り入れたり、教科横断型の学習に取り組んだりしている。その積み重ねが探究活動に役立っているという。TRY&ACTでは集大成として、SDGsにちなんだアクションを起こし、論文にまとめる。

 行政、学校、企業、保護者それぞれが注目するSTEAM教育。それが目指すのは、一握りの天才や、競争に勝てる人材を育てることではなく、当事者意識を持って課題解決に挑める人材を増やすことだ。そのためには、文系か理系か、詰め込みかゆとりか、といった二項対立の図式から、まず大人自身が脱却することが必要だ。

(編集部・石臥薫子、ライター・柿崎明子)

AERA 2021年2月1日号より抜粋