「行き過ぎ」といわれるほど、現場に通う。「目撃していないと、大事なことが分からなくなるから」(撮影/今祥雄)
「行き過ぎ」といわれるほど、現場に通う。「目撃していないと、大事なことが分からなくなるから」(撮影/今祥雄)
「トッカイ」主演の伊藤英明(右)とロケの合間に。関係者とはきめ細かいコミュニケーションを欠かさない。毎年、手書きのメッセージを添えた年賀状を1200枚ほど出す。「八方美人」の呼称は、いまや「万方美人」に拡大(撮影/今祥雄)
「トッカイ」主演の伊藤英明(右)とロケの合間に。関係者とはきめ細かいコミュニケーションを欠かさない。毎年、手書きのメッセージを添えた年賀状を1200枚ほど出す。「八方美人」の呼称は、いまや「万方美人」に拡大(撮影/今祥雄)
「コールドケース~真実の扉~」シーズン3のプロモーションイベントで司会を務める(左)。主演の吉田羊とともに三浦友和、永山絢斗、光石研、滝藤賢一が登場(撮影/今祥雄)
「コールドケース~真実の扉~」シーズン3のプロモーションイベントで司会を務める(左)。主演の吉田羊とともに三浦友和、永山絢斗、光石研、滝藤賢一が登場(撮影/今祥雄)

 プロデューサー、岡野真紀子。WOWOWで初めて作ったドラマが、山口県光市の未成年者による母子殺害事件の被害者を描いた「なぜ君は絶望と闘えたのか」。それからも「しんがり」「コールドケース」「坂の途中の家」など重みあるドラマを多く手掛け、1月から「トッカイ」がスタート。プロデューサーの岡野真紀子は、怒りをもって闘う人間が好きだと言う。有意義なドラマを作りたいと、使命感を燃やす。

【写真】「トッカイ」主演の伊藤英明とロケの合間に。関係者とはきめ細かいコミュニケーションを欠かさない

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 群馬名物、赤城おろしが吹きすさぶ12月、前橋市内でテレビドラマ「トッカイ~不良債権特別回収部~」のロケが進んでいた。コロナ禍が続く中、俳優もスタッフもみな、マスク姿で本番を待つ。一人の感染者も出さないように。それでいて、人と人がぶつかりあう、ドラマならではの臨場感を損なわないように。戸外で音を立てる北風は、その困難な状況を覆って、なお冷たい。

 昨年来のコロナ禍は、私たちの日常からさまざまな楽しみを奪っている。当たり前のように生み出されてきたテレビドラマもその一つだ。緊急事態宣言下にあった4月から5月は、撮影中止、放送延期に追い込まれる作品が続出した。

 それ以前に、日本のテレビドラマにはすでに大きな逆風が吹いていた。動画配信サービスが急激に浸透する中で、ネットフリックスやアマゾンが豊富な資金でオリジナルのドラマを制作し、話題を取る。地上波では「半沢直樹」のような勝ち組ドラマとその他、のようにいびつな視聴率格差が出現している。

 その中で異例の存在感を発揮しているのが、WOWOWドラマ制作部のプロデューサー、岡野真紀子(おかのまきこ)(38)である。

 男性優位のテレビ界で、まだ40歳に手の届かない岡野が手がける作品は、「トッカイ」をはじめ、「しんがり~山一證券 最後の聖戦~」「石つぶて~外務省機密費を暴いた捜査二課の男たち~」と、昨今の地上波ではすでに見ることのない重みのある“社会派”だ。

 一方、昨年5月、自粛期間の只中に打ち出した「2020年 五月の恋」では、リモート時代におけるテレビドラマの新しい形を率先して示した。岡田惠和の脚本、1日15分の4夜連続、ネット上で無料配信。吉田羊、大泉洋が演じる元夫婦が、間違い電話をきっかけに、二人だけに通じる辛辣な会話を交わしながら、コロナ禍の中で奇跡的に仲を取り戻す予感で終わる。

 苦しい現実と、その先にある希望が交差する物語は、自粛のプレッシャーにさらされる人々から「このご時世に、こんなに素敵な最終回」「何げない面白さに励まされた」という共感を呼んだ。

 岡野はドラマを次のようにとらえている。

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