そんな彼女が共感するのは「大学無償化」の法制化を訴えるバーニー・サンダース氏だ。サンダース氏が民主党予備選から撤退したため、大統領選の本選で彼女はバイデン氏に投票した。

「バイデン新大統領には、大学無償化や学費ローン免除を実現してほしい。教育は国民にとって最高の投資だから」

■隠れトランプ派仲間を探す合い言葉は中絶と社会主義

 その「教育」の担い手の一人として、カリフォルニア州ロサンゼルス市の公立高校で、特殊学級の教師を務めるケレン・ジョーンズさん(43)は、襲撃事件の報道を見ながらつぶやいた。

「ああ、これで、バイデンが大統領に決まった。悔しいけれど仕方ない」

 修士号を持つシングルマザー。両親と同居しながら13歳の息子を育てる。

「黒人女性がなぜトランプに投票したのか、と驚かれるかもしれないけれど、キリスト教徒で保守派の私の選択は、当然トランプ一択だった。中絶賛成派のバイデンに票を入れるなんて、自分の倫理観では絶対にあり得ない」

「汝殺すなかれ」という聖書の言葉を信じる彼女は、体内の胎児を人工的に中絶することも“殺人”だと考える。そんなジョーンズさんにとって「人工中絶は合法であり、女性の権利だ」という立場のバイデン氏は「論外」。

 中絶反対を公言するマイク・ペンス氏を副大統領に選んだトランプ氏を支持した。1月6日の議事堂襲撃事件の前後のペンス副大統領の動きについて聞くと、こう語った。

「あれだけ忠実な腹心だったペンスがトランプを本当に裏切ったのかどうか、まだ100%確信が持てない」

 彼女が住むロサンゼルス市内の教員仲間の大多数は民主党支持者だ。その中で彼女は“クローゼットに隠れたトランプ支持者”として本音を言わずに生活してきた。だが、そんな教員コミュニティーにも、彼女同様、隠れトランプ支持者はいる。お互いの存在を認識できるキーワードは「社会主義」と「中絶」だとジョーンズさん。

「会話の中でこの二つの言葉を投げてみて違和感を示したら、トランプ支持者である可能性が高い。そこで勇気を出して『もしかして、トランプに投票した?』と聞くとかなり高い確率で『イエス』という答えが返ってくる」

 大統領選後、敗北宣言をしないトランプ大統領を批判するメディアを彼女はこう見ていた。

「メディアはまるで世界中の人たちが反トランプであるかのようにバッシングし放題。共和党の議員も最後にはトランプを裏切った。でも、この国を共産主義から守るためにトランプが闘ったことを評価する人が、私を含め最低7400万人いる事実は変わらない」

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