■重症コロナICUの看護師 トランプ氏の軽口に激怒

 ミシガン州の病院のICU病棟の看護師で重症のコロナ患者を担当している女性(27)は、襲撃事件の翌日、こんなメッセージを筆者に送ってきた。

「2度目のコロナワクチンを昨日、注射してもらった」

 襲撃事件に関しては「ひたすら悲しい」と一言。彼女が直面しているのは、命をかけたコロナとの闘いだ。

 彼女はすでに8人以上のコロナ患者の死を看取った。12時間シフトの勤務が終わると感染防止のため、家族とも極力会わない自主隔離生活を送っている。ICU病棟では、臨終を迎えたコロナ患者の耳に携帯を当て、最期に家族の声が聞こえるようにしてきた。

 大統領選挙では、郵便投票でバイデン氏に投票した。昨年2月の段階で、トランプ大統領は新型コロナウイルスの伝染力の強さや深刻さを知っていながら、「国民がパニックにならないように」とわざと事態が深刻ではないかのようにふるまってきた。トランプ氏自身もその事実を認めている。その報道をテレビで見た彼女は激怒した。

「トランプ大統領は、注意さえしていれば助かるはずだった命をみすみす危険にさらすような行動を取った。これが国のトップのすることか。ICUで呼吸器につながれて、家族とも面会できずにたったひとりで死んでいくコロナ重症患者の気持ちを想像したことが、彼には一度でもあるのか」

 トランプ大統領は、除菌のために漂白剤を飲めばいいと軽口も叩いた。

「なぜ医療の専門家ではない彼がそんな不用意なことを言うのか。彼が落選しなかったら絶望しかないと思った」

 勤務先の病院では、すでに10人以上のスタッフがコロナに罹患し、8人以上の看護師が「危険すぎる」と仕事を辞めた。代わりに雇われた新人看護師は戦場のようなコロナICUではまだ戦力にならない。全てがもう限界だ。

「トランプがいなくなればコロナ対策チームのファウチ医師がやっと思う存分に采配を振るえる。遅すぎるけど」

 米国内に横たわる相容れない思い、分断、亀裂──。1月20日、バイデン氏が次期米大統領に就任する。(ジャーナリスト・長野美穂)

AERA 2021年1月25日号

著者プロフィールを見る
長野美穂

長野美穂

ロサンゼルスの米インベスターズ・ビジネス・デイリー紙で記者として約5年間勤務し、自動車、バイオテクノロジー、製薬業界などを担当した後に独立。ミシガン州の地元新聞社で勤務の際には、中絶問題の記事でミシガン・プレス協会のフィーチャー記事賞を受賞。

長野美穂の記事一覧はこちら