松岡は、前向きに活動を継続している。オンラインコミュニティーの登録人数は右肩上がり。山海塾の公演も11月に再開した。ほか、舞踏のアーカイブの制作にも取り掛かるなど、複数のプロジェクトを同時に進めている。

 一方、CHIAKIは、コロナ禍を機に仕事のペースを落とした。自粛期間中、夫と食事を作ったり、オンライン動画サービスを見たりしたことで、なんでもない日々の幸せに初めて気がついたからだ。「今まではダンスや音楽が中心。ほかを犠牲にしてもいいと思っていたんですよ。でもそれは自分の仕事に執着しすぎていただけでした」。己を見つめ直す機会となった。

■苦難続く興行関連業界

 思いがけずできた時間を有効活用して、未来に生かそうとする者もいる。日本舞踊家の藤間貴雅は現在、大学院に在学中。仕事と学業を両立していたが、コロナ禍で春先から仕事の依頼が途絶えた。だが状況を逆手にとって、じっくり古典芸能を研究することにした。再び舞台に立つのは、大学院修了後の来年4月の予定だ。コロナ収束の気配がみえないため、先行きは読めない。だが、これまで以上に確信を持って古典芸能を啓蒙し、演目を作りたいという。

 東京文化財研究所によると、歌舞伎や能楽などの伝統芸能は今年3千件以上が中止や延期になっている。藤間が日本舞踊の現状を明かす。「上演を再開している方々もいますが、『半分しかお客さんが入れないと、興行的に厳しい』と公演の再開を見合わせている方たちもいらっしゃいます」

 いま再び、新型コロナウイルスの感染者数は、日本全国で増加傾向にある。12月14日現在、1日あたりの国内感染者は6日連続で2千人を超え、重症者は588人と過去最多を更新した。クラスターの発生を懸念する政府の見解は慎重である。11月、政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は、大規模イベントの人数制限の方針について、21年2月末まで緩和を見合わせることを了承した。また、西村康稔経済再生担当相は「このまま感染拡大が続けば、より強い措置を取らないといけなくなる」とも語った。

 この状況が長期化すればするほど、興行を主体とする業界にとっては死活問題となる。上向く兆しが見えないなか、表現者たちはさまざまな不安を抱えつつも、己と向き合い、日々、試行錯誤を重ねている。日常が戻ってきたとき、劇場やライブ会場に足を運んで、ぜひ、あなた自身の目で、表現者のパフォーマンスを確かめてほしい。

(フォトグラファー・南しずか)

AERA 2020年12月28日-2021年1月4日合併号