――周りの方からはどんな声があるんですか。

自分で言うのもなんですけど、数名の編集の方から「今までで一番いい作品だった」という話をいただきました。今年は偶然にもコロナ禍でリモートやデジタル化が進んだタイミングで、そういった時代背景に「マッチングアプリ」「SNS」というテーマが合ったところは多少あったのかなとは思います。でも、選考委員の方々が候補を選ぶ段階でも、何度かの審査を経て候補になったと伺っていますので、それだけでも十分かなと思っています。

――前の5作との違いや今作の特徴はありますか。

今までは自分を読者だと想定して、自分が読んで楽しいものを書いていました。ただ、今は若い方で本を読まない方も多いので、今作は、広く愛される作品を書こうと。実は一番意識していたのは、読書の楽しさを伝えられたらということでした。なので、いわゆる「文学賞を狙うぞ」という意気込みではなく、楽しい作品を書こうという意識が強かったので、(直木賞ノミネートは)本当にびっくりというところもあります。

――今までの直木賞のイメージはどんなものでしたか。

純文学の芥川賞と比べて、より広く愛される娯楽小説的、かつ最近は社会的な目線が含まれているものという印象があります。もちろん直木賞は憧れの一つではありますが、いろんな文学賞があり、どれも素晴らしいものだと思っているので、だんだん分からなくなっている部分もあります。ただ、この知らせを聞いた弊社の人間の喜び方が異常であったりとか、(ノミネートの)会見には発売イベントよりもたくさんの方が来てくれているので、「これが直木賞の力か」と(笑)。正直今、改めて実感させられています。

――周囲の方はどんな感じで喜んでいたんですか。

「すごいなぁ!」と。「すごい」としか、みんな言わないんです。ちょっと紛らわしかったのが、仕事復帰のタイミングで事務所へ挨拶に行ったら、みんな「おめでとう」と言ってくれるんですけど、それが復帰に対してなのか、候補に選ばれたことを知ってなのかがわからなくて。「何のおめでとうですか?」と毎回聞いていました。

みんながおめでとうと言ってくれて、正月を前にして、こんなにも「おめでとう」と言われることは、なかなかないなと。影響のある文学賞なんだと実感しました。

――作品にはドラムをやっている男の子が登場しますが、その取材で関ジャニ∞の丸山隆平さんにドラムを見せてもらったと『オルタネート』刊行のイベントでお話されていました。丸山さんは本を読んでくれましたか。

イベントでお話しさせていただいたので、「名前出してくれてありがとう」「読むね~」とか。その翌日に、「5冊買おうとしたら、一人一冊までで、5冊買えなかったよ~。今度買って配るね」と言われたところで話が終わっているので、この会見が公になった頃には改めて連絡をして、お礼を言いたいなと思っています。

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「SNSはハサミや定規と変わらない」