住居喪失の危機に見舞われる人がいる一方で、今年後半、首都圏の中古住宅市場は実は活況に沸いていた。東日本不動産流通機構が発表した10月における首都圏の中古住宅成約数は、中古マンションが3636件で前年同月比31.2%増、中古戸建てが1316件で前年同月比41.8%増と、同機構始まって以来の高い伸び率を記録した。

 新築の戸建て市場も6月以降、かつてないほど盛況だ。8月の同機構の調査によると、首都圏の新築戸建ての成約件数は573件と、前年同月を35.8%上回った。

 だが、こうした動きが来年以降、多くの住居喪失を加速させる恐れがある。

■深刻な不況これから

 深刻な不況が訪れるのは、おそらくこれからだ。北半球各国では新型コロナウイルス感染拡大の波が再び訪れ、ロックダウンなどの措置を取る国も出ている。日本でも経済活動に支障が出ることが十分に考えられる。さらなる懸念材料もある。それは、コロナ禍による収入減を見越した住宅ローンの駆け込み需要だ。もしも収入減があった場合、21年以降に住宅ローンを組むとなると、目減りした20年の年収を基準に審査される。

「それならば、19年の年収が基準となる今のうちに住宅を買ってしまおう、という動きが出ています」(専門家)

 21年以降に自分の年収が19年以前の水準に戻ることを前提にしているため、収入が戻らなければ、返済計画に無理が生じる可能性が高い。住宅ローン駆け込み需要による購入者たちは、数年後の任意売却予備軍になる。この駆け込み需要は、「ペアローンと同じくらい危険」だという。

 21年にコロナ禍が完全に消失するとは考えづらい。むしろ、世界的な景気後退は続き、日本でも一握りの業種にしか増収は望めない。つまり、多くの会社員の収入が19年以前の水準に戻るとは考えにくい。

 仮に東京五輪が開催中止になれば、経済へのマイナス影響は甚大だ。企業が恩恵を受けてきた雇用助成金や各種給付金などの効果も限界を超えつつある。日本経済は来年に本格的な不況に突入する恐れがある。今年、在庫を減らした首都圏の中古住宅も、一転して売り出し物件が急増するだろう。来年の住宅市場に明るい材料は見いだしにくい。12年の第2次安倍内閣誕生以来続いてきた異次元金融緩和による不動産価格の異様な高騰も、いつかは終わりが来る。そもそも個人所得が伸びない中での価格高騰が不自然だった。コロナ禍というきっかけを得て、一気に調整される可能性もある。

 不動産市場には、危険信号が灯っている。(取材・文/住宅ジャーナリスト・榊淳司、編集部・野村昌二)

AERA 2020年12月14日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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