※写真はイメージ(gettyimages)
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 加藤シゲアキによる最新小説『オルタネート』は、高校を舞台にした群像劇だ。部活に没頭し、恋をすることを知った高校生たちの特有の心理をみずみずしくも重厚感のある筆致で描く。今なぜ、高校生たちの姿を描こうと考えたのか? AERA 2020年12月7日号に掲載された記事で、その思いを語る。

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■登場人物と共に生きる

 登場人物たちは、目の前にある世界で懸命に生きる。発する言葉の一つひとつが心に残る。

加藤シゲアキ(以下、加藤):書き始めた頃は結末も考えていなくて、「オルタネート」に対して異なるアプローチをする3人のキャラクターを考え、それぞれの世界に飛び出してもらいました。現実の世界でも、不意に訪れる予測不可能な出会いや出来事が人生を豊かにし、成長させてくれるので、最初からあまり決め込まずにいました。物語のなかで夏が訪れれば「夏がきたけれどどうする?」と登場人物たちに問いかける。僕自身、その期間を彼らと一緒に生きていました。

 いまの若い人たちは、スマホなどで日々文字を打っているので、自分の考えを頭のなかで文章化できている人が多く、自然といい言葉を口にしていると感じることがあります。そこは昔から変化しているところなのかもしれません。

 高校の内部や登場人物が挑む料理コンテストなどの細やかな描写も光り、情景が目に浮かぶ。

加藤:さまざまな学校のホームページにアクセスし、学園マップなどを調べていきました。学校によっては内部の様子が動画で見られるようになっていて。結果的に、母校のような雰囲気にはなったのですが、それは自分に根ざしているものだからなのかもしれないですね。

「料理」や「音楽」など、自分が好きなものを物語のなかに採り入れていきましたが、興味のあるものでないと表面的になってしまうし、書くまでに時間がかかってしまう。“いまだに書いていないもので、深く書けるもの”として好きなものを物語のなかで描いていきました。

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