■終わらせられない小説

「オルタネート」というタイトルに加え、登場人物の名である「蓉(いるる)」という響きも印象に残る。

加藤:オルタネートという言葉との出合いは、思い出せないんです。なんでオルタネートにしたんだろう? (笑)。でも、タイトルは早い段階から考えていて「これがいい」と強く思いました。「蓉」という名前は、漢字1文字で読みは3文字くらいの響きがいいなと考え、人名辞典をあ行から順に見て、「蓉っていいな」と。どこか歴史を感じさせるけれど、響きは新しい感じもして。蓉と凪津、3人のキャラクターのうち2人を女性にしたのは、男性を描くと、僕自身になりすぎてしまうから。自分と距離があるという意味で、女性のほうが書きやすいんです。

 そうして生まれた小説「オルタネート」の第1回が掲載された「小説新潮」は発売4日目に重版が決定するなど話題を呼んだ。

加藤:歴史ある文芸誌で連載ができたことは僕自身も嬉しかったですが、僕以上にファンの方含め周囲の人びとが喜んでくれました。若い女性が小説新潮を片手に持っている姿を想像すると、ちょっとシュールですけれど(笑)。せっかく買ったのだから、掲載されているほかの作家さんの小説も読んでみた、なんて声も聞きました。

 ラストを決めずに書き始めたので、終わり方が難しく、書いているときが一番不安だったかもしれません。いつもはスパッと終わらせることができるのですが、今回は“終わらせられない小説”でした。なぜなら、高校生たちの人生がその後も続いていくことを知っているから。

 とはいえ、小説は書き終えることが何より大切なので、終わるまで書き続けるしかない。連載から単行本化するにあたり、ラストを書き直してみたところ、しっくりきたんです。最後のフレーズは(原稿の最終段階である)校了の前日まで直していました。そしてようやく「これだな」というところにたどり着けた。登場人物たちはみな、「オルタネート」の世界をよく生き抜いてくれたな、と思います。

(ライター・古谷ゆう子)

AERA 2020年12月7日号より抜粋