実現に向け、国会や中央省庁だけでなく、広く国民の間で議論されるよう取り組むという。川邊さんが見据えているのはオンライン投票の恒久化だ。

「まずは新型コロナ対策として導入し成功事例を積み重ねることで、オンライン投票の意義を理解していただき、信頼を得ることが大事だと思っています。その上で、恒久化に向けた活動につなげていきたい」

■投票の秘密保持も重要

 日本IT団体連盟の提言内容を「意義深い」と評価するのは、情報セキュリティ大学院大学情報セキュリティ研究科教授の湯淺墾道(ゆあさ・はるみち)さん(50)だ。

「米大統領選で史上最多の人が郵便投票したことにも表れているように、日本でも感染リスクがある中で投票所には行きたくないという人が少なからずいるはずです。オンライン投票はコロナ禍にあって有権者全体に通じる課題の克服につながる有効な手段だと思います」

 湯淺さんは、オンライン投票の恩恵を受けるのは高齢者と地方で暮らす人々だと指摘する。

「限られたマンパワーの下での開票作業ミスや自然災害の頻発で綱渡りの状態で選挙の実施を余儀なくされるケースが各地で相次いでいます。投票所に出向くのが困難な高齢者は都市部、地方を問わず増えています」

 技術面については湯淺さんも、今の技術でほぼ可能と見る。

「最大の難点は本人確認でしたが、マイナンバーカードの普及でスマホでの本人確認も可能になる見通しがつきました」

 誰に投票したのかを本人以外には知られないようにする「投票の秘密保持」に関しても、高度に暗号化することで選挙管理者も誰が誰に投票したのか分からないシステムが、エストニアなどの先進導入国で確立済み。国内でも同様のシステムで昨年度以降、海外邦人の在外投票にオンライン投票を導入するための実証実験が行われ、支障などは報告されていないという。

 にもかかわらず、オンライン投票導入の機運が高まらないのはなぜか。湯淺さんはこう言う。

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