「絶対に障害を起こさないネットワークや、全くバグのないソフトウェアはあり得ません。選挙は民主主義にとって一番大事なプロセスなので、ゼロリスクにはできませんという前提で取り入れるのは難しいのです」

 10月1日に東京証券取引所で大規模なシステム障害が発生し、終日株式売買が停止した記憶も新しい。デジタル技術に対する社会的信頼も、日本ではまだ十分とはいえないのが現実だ。

■「クリック一つ」に疑問

 オンライン投票が全面実施されれば投票率アップに寄与することも期待されるが、一概に投票の簡便化が進めば良いというものではない、と指摘するのは早稲田大学政治経済学術院教授の河野勝さん(58)だ。

「期日前投票も含め有権者が何らかのコストをかけなければ投票できない今の選挙制度は、コストを払ってでも政治参加したいと考える人たちによって支えられているともいえます」

 今回の米大統領選後、バイデン氏が「投票は神聖なもの」と有権者に呼び掛けたことを引き合いに、河野さんはこう続けた。

「主権者として一票を投じるという行為は、クリック一つでアマゾンから商品を買うのとは、どこか根本的に違うのではないでしょうか。オンライン投票でササッと投票できるようになれば投票率は上がるかもしれない。でも重要なのは、それで選挙の正当性が高まるか、あるいは人々がそう感じることができるかです」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2020年11月23日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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