Rodrigo Sorogoyen/1981年9月16日、スペイン・マドリード生まれ。マドリード映画撮影・視聴覚芸術学校で脚本を学び、テレビシリーズの脚本家としてキャリアをスタート。長編3作目「ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件」(2016年)でサン・セバスティアン国際映画祭の脚本賞を受賞。本作のベースとなった短編映画「Madre」(17年)はスペイン内外の映画祭で50以上の賞を獲得。第91回米アカデミー賞短編実写映画賞にノミネートされた(写真:DYDPPA/REX/Shutterstock)
Rodrigo Sorogoyen/1981年9月16日、スペイン・マドリード生まれ。マドリード映画撮影・視聴覚芸術学校で脚本を学び、テレビシリーズの脚本家としてキャリアをスタート。長編3作目「ゴッド・セイブ・アス マドリード連続老女強姦殺人事件」(2016年)でサン・セバスティアン国際映画祭の脚本賞を受賞。本作のベースとなった短編映画「Madre」(17年)はスペイン内外の映画祭で50以上の賞を獲得。第91回米アカデミー賞短編実写映画賞にノミネートされた(写真:DYDPPA/REX/Shutterstock)
「おもかげ」/10年前にいなくなった息子のおもかげを宿す少年と出会ったエレナだが──。10月23日から全国順次公開 (c)Manolo Pavon
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「ラブレス」/発売元:ニューセレクト、販売元:アルバトロス、価格3800円+税/DVD発売中 (c)2017 NON-STOP PRODUCTIONS-WHY NOT PRODUCTIONS
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 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

【「おもかげ」の場面写真はこちら】

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 元夫と旅行中の6歳の息子が、海辺からかけてきた一本の電話。「パパが戻ってこない」。それが母・エレナが息子の声を聞いた最後だった──。ロドリゴ・ソロゴイェン監督(39)の「おもかげ」はそんな衝撃的なシーンから始まる。

「これは私の友人に実際に起こったことなんです。6歳の息子から電話がかかってきて『海岸にいるけれど、パパがどこにいるかわからない』と。幸い事なきを得ましたが、彼女は『人生で最悪の30秒間だった』と言いました。私は脚本家として、この話にドラマを感じたのです。もう少し時間を延長して、彼女を苦しませてみよう、と」

 2017年にまず15分の短編映画にした。1シーン1カットで、息子からの電話を受けたエレナの恐怖を緊張感たっぷりに描き、米アカデミー賞短編実写映画賞にノミネート。その短編を冒頭に使い、「その後」を描いたのが本作だ。

「短編を制作した仲間たちも私も、この物語を続けたいと思ったのです。不安に駆られながら息子を捜すために家を飛び出したエレナを、放っておくことはできなかった」

 10年後。エレナは行方不明の息子の残り香を追い、海辺のレストランで働いている。「息子をなくしてイカれた女」と口さがない人々は言う。そんなある日、彼女はどこかに息子のおもかげを宿した少年ジャンと出会う。事件の「その後」を、犯人捜しのサスペンスではなく、ヒロインの心の旅として描いた点が斬新だ。

「観客を驚かせたかったんです。通常は誰かがいなくなったら、その人を捜し、いなくなった理由を探す。私はひな型から逸脱したかった。そうではなく、息子を失った母親がどうやって暗いトンネルから出ていくのか、というところに光を当てたかった」

 ひな型に収まらないゆえ、作品の受け取り方も人それぞれだ。次第に親しくなっていく親子ほどの年の差のエレナとジャンを、周囲は微妙な目で見つめる。エレナがジャンに執着するのは息子のおもかげゆえなのか? 二人の間に確かにある愛はどんな種類のものか? ロドリゴ監督は答えを提示しない。さまざまな解釈ができるラストに、筆者は残酷さの余韻を感じたが、

「そう受け取っていただくのも、おもしろいですね。自分としては『赦(ゆる)し』を描いたと考えていますけど」

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