岩井秀人(いわい・ひでと)/作家・演出家・俳優。2003年に劇団ハイバイ結成。13年に舞台「ある女」で岸田國士戯曲賞受賞。QJWebで「ひきこもり入門」連載中(撮影/平岩享)
岩井秀人(いわい・ひでと)/作家・演出家・俳優。2003年に劇団ハイバイ結成。13年に舞台「ある女」で岸田國士戯曲賞受賞。QJWebで「ひきこもり入門」連載中(撮影/平岩享)

 ひきこもり当事者にしかわからないことや伝えたいことがある。劇作家・岩井秀人もその一人だ。AERA 2020年10月19日号で岩井さんが語る。

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 ひきこもりが犯罪者予備軍みたいに扱われるのは、理解がなさすぎるなと思ってるんです。風邪気味だったり、ちょっと体が弱かったりする時期は誰にでもある。ひきこもりって、それと同じようなものだと思うんです。僕は10代の4年間をひきこもって過ごし、その後も人生で何度かそういう期間がありました。

 演劇をやっている最中は元気なんだけど、終わると毎回「もう辞めたい」ってネガティブになるんです。演劇は、人が集まってものすごく密な時間を過ごします。稽古が始まると毎日同じメンツで会うし、本番も1カ月続く。台本を書いたり演出したりって、僕にとっては異常に社会性を発揮する時間なんです。自分はこう思う、でも他の人はこう思うかもしれない、どうしたら伝わるだろうか、と延々考えるからです。そうやって社会性を発揮し続けて使い切ると、そのあと、どぼーんと沼に沈んでるみたいな社会性ゼロの時期が訪れる。

 でもそんなことを何年も繰り返すうちに、そのサイクルに気づいた。実はただの季節の変わり目みたいなものだったんです。

 去年も、浮き上がる期間と沈む期間がありました。2019年に手がけた公演は僕にとって重量級でした。会場はこれまでで一番大きくて、台本は新作。松尾(スズキ)さん、松(たか子)さん、(永山)瑛太くんが出て。いっぺんにいろんなことが重なってプレッシャーもすごかった。社会性を何回か使い切った気がします。

 ひきこもっている期間は、ただ横になってゲームをしています。でも、楽しくないですよ。インプットでもリフレッシュでもない。ただ社会から離脱しているだけの時間。一日の区切りもなくて「また目が覚めてしまった」という感じ。そんな生活を3カ月ぐらい続けていたら、ゲームも嫌になって、身体的にも限界が来た。それでまた外に出るようになりました。

 外の嫌なことを回避する生命維持装置が一度働いてしまったら、また外に出たいと思えるようになるまで、とにかく待つしかない。親も含めて、周りがその人の欲望や恐怖心をコントロールしようとするのはやめたほうがいいですよね。

AERA 2020年10月19日号