Ruth Bader Ginsburg/1933年生まれ、9月18日に死去。弁護士として性差別撤廃訴訟を数多く手がけた。93年に最高裁判事になった (c)朝日新聞社
Ruth Bader Ginsburg/1933年生まれ、9月18日に死去。弁護士として性差別撤廃訴訟を数多く手がけた。93年に最高裁判事になった (c)朝日新聞社

 米大統領候補の第1回テレビ討論会は、共和党候補のトランプ大統領と民主党候補のジョー・バイデン前副大統領が罵り合う、前代未聞の様相を呈した。メディアはこの討論会を酷評したが、その内容にかかわらず、アメリカでは有権者を投票に向かわせるある事情があるという。AERA 2020年10月12日号の記事を紹介する。

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 実は、討論会の内容にかかわらず、保守派もリベラル派も有権者を投票に駆り立てる最大の理由が、米社会に立ち込めていた。連邦最高裁判事の中で最高齢で最もリベラルだったルース・ベイダー・ギンズバーグ氏が9月に死去。トランプ氏は、後任として、保守派のエイミー・コニー・バレット判事を指名した。判事の承認をつかさどる上院で多数派の共和党は、判事の公聴会を10月12日にも開始し、月末までに承認したい意向だ。

 これによって、9人の最高裁判事の構成が、保守派6人に対し、リベラル派3人となる。オバマ前大統領の医療保険制度改革(オバマケア)や人工妊娠中絶の可否を巡り、この構成の変化は、民主党とリベラル派市民にとって、最大の懸念材料となる。

 任期に何人の最高裁判事を指名できたかというのは、米大統領の最大の功績とされる。最高裁判事が終身であり、大統領の任期を過ぎても数十年にわたり、米司法制度に最大の影響力を持ち続けるためだ。

 ギンズバーグ判事を失ったリベラル派は、次の大統領職を民主党が奪還するがために投票所に向かう。一方、共和党は、さらに保守派判事を増やしたいがために、トランプ氏に票を入れるのに躍起になる。

 大統領選の争点が、最高裁判事の人事をきっかけに、これほど有権者を奮い立たせることはかつてなかった。それに加え、白人至上主義、女性差別などの基本的な人権問題さえが、世界最大の民主主義国家の選挙で焦点となった。

 その上、10月2日未明、トランプ夫妻が新型コロナ検査で陽性と判明した。夫妻は、自主隔離を一定期間行い、選挙集会は見合わせる。終盤戦で選挙の見通しがさらに不透明になり、1カ月後の投開票日はまさに未知の不安に包まれている。(ジャーナリスト・津山恵子(ニューヨーク))

AERA 2020年10月12日号より抜粋