東京高裁(c)朝日新聞社
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「主文、控訴を棄却します」

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 8日午後2時過ぎ、東京高裁102号法廷。若園敦雄裁判長は裁判の冒頭こう述べ、一審の東京地裁判決を支持した。

 2018年3月、東京都目黒区で、5歳の船戸結愛(ゆあ)ちゃんが虐待で命を落とした事件。

 結愛ちゃんを虐待死させたとして、保護責任者遺棄致死罪に問われた母親の優里被告(28)に対して、東京高裁も一審を支持し、懲役8年とした。

「もうおねがい ゆるして ゆるしてください おねがいします」。住んでいた自宅アパートで見つかったノートに書き残された、結愛ちゃんが両親に許しを請う幼い言葉は、社会に深い悲しみと衝撃を与え、親による子への体罰を禁じる法改正のきっかけとなった。

 結愛ちゃんが亡くなって2年6カ月。当時の夫の雄大受刑者(35)も同罪に問われ、虐待を主導したとして昨年10月、懲役13年の判決が確定している。

■虐待の背景が裁判の争点

 一方で優里被告は、昨年9月、一審で懲役8年が言い渡されたが、それを不服として東京高裁に控訴していた。

 この日、優里被告は出廷せず、傍聴人だけが見守る中、裁判は行われた。今回の裁判で争点となったのは、虐待の背景としてあったとされる心理的DV(ドメスティックバイオレンス)だ。優里被告は、雄大受刑者の支配下にあったとされる。

 裁判の過程で、優里被告は雄大受刑者からの執拗な心理的DVを受け、洗脳されたような状態になり、次第に反発できなくなったことがわかっている。

 弁護人によれば、一家が香川県に住んでいた時、優里被告は雄大受刑者から結愛ちゃんへのしつけについて、連日数時間にわたって説教されるなどし、こうした「心理的DV」を受けるうちに優里被告は抵抗する気を失い、「怒ってくれてありがとう」と自分から言うまでになった。そして、優里被告が強いDVを受け続け、急性ストレスで記憶を喪失するなど「結愛さんの身に起きていることを、現実感を持って受け止めることができなかった」という。

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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