平野:スナップと報道写真を両立できる初沢さんは、ユニークな存在です。一方、意識して美的に撮っている写真もありますよね。レインボーブリッジがライトアップされた写真は「あえて美しく撮る」ことに批評性があるけれど、自分なりの方針があるんですか。

初沢:美しければ美しいほど、皮肉になる写真もあります。例えば今挙げてもらった「東京アラート」や「ブルーインパルス」は、下手に撮ったら意味がない。美しく撮った結果、「癒やされた」「部屋に飾りたい」という人も出てくるのですが。

平野:『「カッコいい」とは何か』にも書きましたが、写真は、プロパガンダに簡単に加担してしまうから、その批評性は重要です。もう何年も内向きに「日本、スゴイ」と言い続けてきたけれど、台湾や韓国のコロナへの先進的な対応を見ると、さすがに目が醒めて自信喪失した日本人も少なからずいたでしょう。

初沢:本を出してから「コロナで東京は変わったか」と、よく聞かれますが、むしろ変わらない部分のほうが大きいと思います。見てわかる部分で一番変化があったのは、家庭の中じゃないですか。良くも悪くも父親がずっと家にいる。ただ、そのことによる変化は、家の中に入って撮ったとしても写らないでしょうね。神楽坂のカフェでの父子の写真は、その点でドキュメンタリー的です。

平野:写真集の文脈の中で、多様な東京と人びとの姿がありますが、このあとも東京を撮っていくんですか?

初沢:そうですね。もともと2、3年継続して撮りたいと考えていたので、コロナがどう落ち着くかわかりませんが、東京を撮り続けていきます。

(構成/ライター・矢内裕子)

AERA 2020年9月7日号