「東京のコロナを記憶する」 初沢亜利×平野啓一郎がレンズを通して見た風景

新型コロナウイルス

2020/09/04 08:00

初沢:同じ場所にいても、どの視点から撮るかで違いが出ますね。例えば上野の桜並木では、アマチュアカメラマンも大勢、来ていました。彼らは最前列で桜並木だけを狙うのですが、私は「立ち入り禁止」の柵も入れることで、歴史的なある瞬間を撮りたかった。

平野:コロナ禍で時間感覚がおかしくなってしまった。時系列に並んでいる写真集を見ると、自分の狂った時間を追体験するような気持ちになります。

初沢:写真を見直していて気づいたんですが、やたらと人が写っているんですよ。人がいない写真をもっと入れても良かったけれど、「人がいない東京」の風景って、お盆や正月で見慣れている。自分はスナップが好きなので、人がいないと風景写真になってしまう。自粛期間中でも外に出ざるを得ないエッセンシャルワーカーの方や働いている人がいる。その人たちの一瞬を撮るのがスナップ写真なので、どうしても人を探してしまう。「コロナ禍の東京はこんなに人が出ていたのか」と海外では思われるかもしれません。

平野:東京は完全ロックダウンじゃなかったと認識されていますからね。

初沢:結果として、2月から4カ月ほど毎日、街を歩き続けました。政府の方針が曖昧な中、全体主義的な自粛への抵抗感もあったし、写真家は部屋にいても仕事にならない。外へ行かなくては、という気持ちでした。

平野:当初、コロナは罹患(りかん)すればどんな人も同じように発症し、そこに経済格差はないと言われていました。けれど医療従事者をはじめ、働かざるを得ないエッセンシャルワーカーやいろいろな事情を抱えた人がいます。「ステイホーム」という発想自体が、欺瞞(ぎまん)だと指摘する人もいます。初沢さんの写真にはスーパーで働く人、ホームレス、港区の東京出入国在留管理局、「夜の街」の人など、多様な人たちが網羅的に写されています。

初沢:スナップ写真家は報道の現場には行きませんが、今回私は報道カメラマンと一緒になる現場でも撮りました。歴史の証言となるような出来事は撮っておくべきだと思ったからです。一方、報道カメラマンは街のスナップは撮りません。何事もない場所で、何かをすくいとって撮ることはしない。自分としては、フォトジャーナリストと写真家がミックスされているバランス感覚が一番落ち着きます。

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