新型コロナウイルスが確認されて8カ月、世界的に感染拡大が収まる気配がない。国内も第2波の真っただ中だ。その背景に、ウイルスの変異が関与している可能性がある。AERA 2020年8月31日号から。
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国立感染症研究所(感染研)は8月上旬、国内の感染者3618人や空港検疫で見つかった感染者ら約3760人のウイルスのゲノム(全遺伝情報)を解析した結果に、集団感染(クラスター)の疫学調査でわかったことを加味した分析結果を発表した。対象にしたのは7月16日までのデータだ。
ゲノムを端から端まで解析し、別のウイルスの解析結果と比較することにより、ウイルスがどのように広がっていったのかを推測することができる。それによると、日本で1~2月にクラスターを起こしたウイルスと、緊急事態宣言前から現在にかけて流行しているウイルスでは、それぞれ由来が異なることがわかっている。
まず、1~2月、中国・武漢由来のウイルスが入ってきて小規模なクラスターが発生した。その後、中国由来のウイルスは見られなくなった。入れ替わるように3月下旬には、全国の複数の地域で同時に欧州由来のウイルスが原因のクラスターが発生。各地で感染が広がり、4月の緊急事態宣言へとつながった。
5月下旬までに流行はいったん収束したようにみえたものの、6月に入って経済活動が再開すると、感染は再拡大した。
6月以降に見つかったクラスターの感染者のウイルスは、3月下旬に見つかった欧州由来のウイルスと比べて6塩基、変異していた。
新型コロナウイルスのゲノムはRNAでできており、塩基はRNAの構成成分だ。新型コロナウイルスのゲノムは約3万塩基でできている。感染研によると、新型コロナウイルスは自然の状態で月2塩基程度の速度で変異が起きるので、約3カ月間で6塩基の変異、というのは通常の速度と考えられるという。
ただし、6塩基の変異が蓄積していく途中段階のウイルスは見つかっておらず、ミッシングリンク(空白のリンク)状態だ。感染研は、空白の期間には軽症や無症状で地域の保健所が把握しづらい感染者が、「静かに感染をつないでいた可能性」があるとする。(ライター・大岩ゆり)
※AERA 2020年8月31日号より抜粋