「都心のワンルームと同程度の家賃で、こちらなら1LDKに住めます。リモート会議で背景に生活空間が映り込まないよう、仕事部屋と寝室を分けたいという希望が多く寄せられました。住宅が密集していないので音の問題も起きにくいんです」

 新型コロナウイルスの流行拡大で、住まいに対する考えが大きく変わっている。最大の理由は、自宅で働くテレワークが本格的に普及したことだ。

 従来は、都心などにある勤務先との時間距離を最優先して、狭い住宅で我慢しなければならなかったが、会社への通勤頻度が減れば少しぐらい遠くても許せる。広くてテレワークしやすい家を選べるエリアへの移住を考える人が増えているのだ。

 リクルートの不動産情報サイト「SUUMO」で閲覧された物件の所在地が、1月と5月で変化。中古戸建てで最も増加率が大きかったのは、千葉県木更津市で2倍超に。2位同県館山市、3位神奈川県葉山町など東京駅まで1時間以上かかる街が並ぶ。中古マンションでも物件数の多い東京23区は上位に入らず、横浜市瀬谷区、神奈川県逗子市、千葉県鎌ケ谷市などが並ぶ。

 SUUMO編集長の池本洋一さん(47)は「『職住融合』が進むなか、通勤時間が長くても自然が豊かなエリアや、リゾート感覚が楽しめるエリアに人気が集まっている」と分析する。

 コンクリートの街から逃げだして手に入れる広々とした家。平日の昼間は快適な環境でテレワークをこなし、朝夕と休日は木漏れ日や潮騒に包まれてのんびりと過ごす──。コロナ時代の移住は、そんなスタイルが基本になりそうだ。(住宅ジャーナリスト・山下和之、ライター・吉松こころ)

AERA 2020年8月10日-17日合併号より抜粋