「痛勤」を避けられるのもテレワークの利点。本格的な普及のためにはコロナ禍の中では目立ったマイナス面をクリアする必要がある (c)朝日新聞社
「痛勤」を避けられるのもテレワークの利点。本格的な普及のためにはコロナ禍の中では目立ったマイナス面をクリアする必要がある (c)朝日新聞社

 一度はテレワークを導入したのに、原則オフィス勤務に戻す企業が増えている。生産性が低いという理由だが、コロナ禍の中の結果だけでそう決めつけていいのか。AERA 2020年8月3日号で掲載された記事から。

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 都内の商社に勤務する埼玉県の女性会社員(40代)は、深刻な表情でこう打ち明けた。

「毎日びくびくしながら通勤しています」

 勤務先の会社は緊急事態宣言直前の4月上旬にテレワークを導入したが、宣言解除後の6月下旬に全面解除した。

「周囲の同僚もみんなテレワークに戻りたいと言っています。今の状況で満員電車に乗って毎日通勤させるのはパワハラだという声も上がっています」

 東京都と首都圏の新型コロナウイルス感染者数は7月中旬以降、高止まりが続く。この女性にとってテレワーク解除は家族の命にもかかわる問題だ。もし感染すれば、同居している高齢の母親にも感染させてしまうリスクが高い。女性はテレワークの意義をこう強調する。

「通勤がないのが一番のメリット。生活の質が向上します。社員の満足度が上がって離職率が下がるはずです」

 しかし、会社の論理は異なる。女性の勤務先がオフィス勤務を再開したのは、生産性が落ちる、と判断したからだという。会社は在宅勤務中の社員の勤務状況を把握するため、支給したパソコンのキーボード入力数やマウス操作回数などを調べられるソフトウェアを導入していた。中には、キーボードにほとんど触れていない社員もいたという。だが女性はこう訴える。

「在宅勤務で作業効率が落ちる面もあるのは事実ですが、社内コンピューターへの接続の安定化や、自宅で仕事用に使う椅子や机をそろえるなどテレワーク環境を整えれば、生産性はもっと上がるはずです」

 国内企業のテレワークの状況はどうなっているのか。

 グーグルのスマートフォン利用者の位置情報分析によると、4月の出勤者は1~2月上旬(中央値)から21.9%減少。内閣府が5月25日~6月5日に実施した調査では、新型コロナの感染拡大後に全国でテレワークを経験した人は34.6%に上った。4月7日の緊急事態宣言を受けてテレワークが急拡大したことがわかる。

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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