ブルーム教授は一方で、今年3月に発表したリポートの中で「コロナ期には平常期と同様の高い生産性をテレワークに期待することは難しい」とも指摘している。その理由として「子ども」「スペース」「プライバシー」「選択の余地」という四つの要因を挙げる。

 NRIが5月に実施した調査も、この指摘を裏付ける。小学生以下の子どもと同居する人の65.3%が「子どもの世話や勉強を見ながら仕事をした」と回答。そのうち65.6%が「子どもの世話や勉強を見ながらの在宅勤務で業務上の支障を感じた」という。

 また、在宅勤務を行った主な場所として「リビング・ダイニング」と回答した人が54.1%と半数超だった。仕事仕様になっていないリビング・ダイニングで、しかも配偶者や子どもも家にいる環境で仕事をしていれば、プライバシーの確保が困難だったことは容易に想像できる。さらに、「会社や上司からの指示・命令」で在宅勤務を行った人が74.0%に上り、「会社や上司からの推奨」(21.8%)を含め9割以上が在宅勤務実施における「選択の余地」が少なかったことが推察できる。

 テレワークの生産性の高さを説くブルーム教授でさえ、テレワークは万能ではない、と唱えている。例えば、イノベーションを生むような活動はリモートでなく、対面のコミュニケーションの方が有効だという。前出の中島さんはこう指摘する。

「今回のコロナ期のテレワークでは、業務特性や従業員の希望などはあまり考慮されることなく、感染予防優先で、一律にテレワークに移行してしまったところに問題があります。こうした特殊事情がなくなったとき、それでも生産性が上がらないと切り捨てられるのか。国際的にみても労働生産性が低く、人手不足が将来深刻化する日本では、とりわけ冷静な評価、判断が求められます」

 日本生産性本部がOECDや世界銀行などのデータに基づき毎年発表している「労働生産性の国際比較」によると、日本の時間当たりの労働生産性は先進7カ国で最下位という状況が常態化している。(編集部・渡辺豪)

AERA 2020年8月3日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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