ニューヨーク市内(写真/gettyimages)
ニューヨーク市内(写真/gettyimages)
福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授 (c)朝日新聞社
福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授 (c)朝日新聞社

 メディアに現れる生物科学用語を生物学者の福岡伸一が毎回一つ取り上げ、その意味や背景を解説していきます。今回は「PCR検査」について取り上げます。

【写真】筆者の福岡伸一さん

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 新型コロナウイルスのアウトブレイクが勃発した今年3月、客員教授をしているニューヨークのロックフェラー大学を訪問していた私は、そのまま都市ロックダウンに巻き込まれ、自宅待機、渡航規制命令が敷かれたため足止めされ、幽閉生活を余儀なくされることになった。どうしても必要な食料品・日用品の買い出し以外は、外出禁止である。

 人影や車がすっかり消えたニューヨークの街は、まるでSF映画の一シーンようで、非現実感が漂っていた。以降、ニューヨークならびに米国は世界最大の感染中心となってしまったことはご存知のとおりである。

 数カ月、息をひそめるような引きこもり生活が続いたが、引きこもっている限りは、感染のリスクは小さく、また、食料・物資の供給も安定していたので、その点は安心だった。

■データ中心主義のNY

 ニューヨーク州のクオモ知事の方針は明快で、徹底的なPCR検査による感染者の把握と隔離、その数値データの推移に基づいた規制の実行である。一時は連日6千ケースを超える感染者を数えたが(ピークは3月下旬から4月上旬)、厳しい規制のおかげで(米国では自粛要請ではなく、法的な強制で罰則罰金もある)、4月後半以降、数値は減少に転じ、7月に入ってからはかなり小さい数値に落ち着いてきた。それでも毎日200~300人規模の感染者なので、数だけ見ると東京の現況と同じ程度だが。

 クオモ知事の規制緩和方針もデータ中心主義で、その点は、非常にわかりやすい。多文化が共存する都市なので、客観的な指標がないと立ち行かないのである。その指標とは、過去14日の連続した入院者数の減少、同じく死者の減少、病院の空きベッド率30%以上、集中治療室の空きベッド率30%以上、など7項目である。

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福岡伸一

福岡伸一

福岡伸一(ふくおか・しんいち)/生物学者。青山学院大学教授、米国ロックフェラー大学客員教授。1959年東京都生まれ。京都大学卒。米国ハーバード大学医学部研究員、京都大学助教授を経て現職。著書『生物と無生物のあいだ』はサントリー学芸賞を受賞。『動的平衡』『ナチュラリスト―生命を愛でる人―』『フェルメール 隠された次元』、訳書『ドリトル先生航海記』ほか。

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