都は、感染状況に応じて、確保する病床数を1千床(レベル1)、3千床(同2)、4千床(同3)に段階的に引き上げる。都は感染が増えている現状を踏まえて都内の医療機関にレベル2に引き上げる準備をするよう、すでに要請したという。

東京都医師会副会長で、東京都新型コロナウイルス感染症対策審議会の会長を務める猪口正孝さんは、今年の4月や5月のような逼迫(ひっぱく)した状況にはならないのではとみている。

「今確認されている感染者は若く軽症の人たちが多く、入院してもすぐに退院しています。第1波のときは中高年層も多く、追い込まれた状態になってからようやく検査で陽性が確認されるので、入院するとすでに重症という人が多かった。患者層がまったく違っているので、医療需要がそもそも違うのです」(猪口さん)

 西村康稔経済再生相も7月6日、政府の専門家会議に代わって新設した分科会で、東京に緊急事態宣言をただちに必要としない理由として、医療態勢が逼迫していないことを挙げた。

 ただ、楽観はできないはずだ。感染経路不明の患者もいれば、確認しようがない無症状の感染者もいる。都内の病院に勤める医師は「大規模な院内感染がひとたび起きれば体制はすぐに吹っ飛ぶ」とも話す。院内のスタッフが感染したばかりだったことを踏まえての考えだ。

 一方、中央大名誉教授(行政学)の佐々木信夫さんは医療態勢中心のそんな議論を疑問視する。

「行政側の都合で医療態勢の受け皿議論をして『問題ない』と無策を貫くのは、『都民ファースト』とは正反対の態度でしょう。感染者ゼロ、マスクをしなくても暮らせる東京に戻すことが都民の望みのはずです」

 佐々木さんは、このまま東京で感染が広がったときの街の将来を心配する。都の貯金にあたる財政調整基金は約9千億円あったが、コロナ対応で底が見え始めた。今後は赤字都債に依存する都政運営を迫られるとみるが、不安要因はまだある。

「秋からコロナ不況に陥り、もし東京オリンピックの中止が決まれば、ダブルパンチで都の財政は一気に悪化するでしょう」

 五輪の開催は不透明だが、今できることはあるはず。検査の拡大は不可欠だ。(編集部・小田健司)

AERA 2020年7月20日号より抜粋