同じ学校には、北九州市の小学校でのクラスター発生のニュースに戦々恐々とし、念入りな安全策を主張する教師もいる。管理職の判断はリスクゼロを目指す方向に流れがちだ。

 安全を徹底するあまりに教育の質が低下していると危惧する声は、高校の現場からも上がる。

「理科実験がまともにできない」

 静岡県の公立高校勤務の女性教師(52)はそう嘆く。これまでは2人1組で行っていたが、グループワークが禁止された。1人ずつ実験をするには器具が足りない。

「教師がやるのを見せるしかないのですが、密になるので集まってはダメだと。それでは後ろの生徒は実験の手元が見えません。スマホで撮影した映像をプロジェクターにつないで見せていますが、こんなことをいつまで続けるんでしょう」

 現実の学校生活に「新しい生活様式」の何をどこまで取り入れるべきか。長野県の佐久総合病院佐久医療センター小児科医長の坂本昌彦医師は、休校休園でストレスを経験した子どもたちの回復に必要なのは、「日常を取り戻すこと」だと言う。

「大人にとっては仕事、子どもにとっては学校、乳幼児には遊びです。世界的に子どもの感染は少なく、子ども同士の感染もまれであるとわかっています。それを踏まえ、新しい生活様式を忠実に守って得られるメリットと生じるデメリットを冷静に比較し、負荷が大きすぎるものは見直していく必要があります」

 教育方法学が専門の石井英真(てるまさ)・京都大学准教授も、学校生活が無味乾燥になり、子どもの意欲が失われることを懸念する。

「行事や部活の大会なども中止になり、多くの子どもたちはモヤモヤを抱えています。制限だらけで笑いさえ自粛している子もいる。だからこそ、一方的な授業ではなく、子ども同士のつながりを作り、心の温度を上げる工夫、新しい挑戦が必要です。教師がそこに注力するためにも、消毒などの周辺業務を外注する予算措置や、地域・保護者の応援が急務です」

(編集部・石臥薫子)

AERA 2020年7月6日号