精神科医/和田秀樹さん (写真:本人提供)
精神科医/和田秀樹さん (写真:本人提供)

 新型コロナウイルス感染拡大以降、私たちの生活は大きく変わった。感染防止に努めるあまり、自由や幸福の追求など人として大切のものを失いつつある恐れもある。AERA 2020年7月6日号から。

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 どんな場面でどう振る舞うのが、感染リスクを抑える上で合理的なのか。緊急事態宣言解除後、「新しい生活様式」についてAERAがアンケートを行ったところ、知りたいことだけではなく、怒りや疑念の声も多く集まった。

「自分や友だちがウイルスにしか思えなくなる変な感覚、人間嫌いになりそう!」(沖縄、41歳女性、専業主婦)
「この生活様式は永遠に続くのか、何かのきっかけで負担が減るのか。ゴールが見えない」(東京、42歳女性、会社員)

 大切な人を守るため、感染拡大を防ぐためといわれれば致し方ない気もするが、実は私たちは失っているものも大きいのではないか。

 精神科医の和田秀樹さんは問題を提起する。

「人間の心がまったく無視されています」

 その象徴こそ、新しい生活様式の基本にある、人との距離を2メートル保つ「ソーシャルディスタンス」だという。

「大切な人と心の距離を近づけたいとき、互いに触れ合える距離で身振りや表情を見ながらコミュニケーションすることは大切です。ソーシャルディスタンスは、人と心を通わせる喜びを失わせます」

 映画、音楽など芸術分野は、自粛要請が続き縮小傾向にある。不安から映画館や劇場に足を運ぶ人は減り、入場人員にも制限がかかる。新しい生活様式が1年、2年と続けば、それが普通になる恐れもある。

「撮影中止で食べていけなくなり、優秀なスタッフが辞める例もある。映画や演劇を観ない生活が当たり前になれば、文化が細ることにもつながりかねません」

 和田さんが何より違和感を覚えるのは、「自由」よりも「コロナで死なないこと」が最優先される社会の風潮だ。

「人間はある恐怖を味わうと、『どんな手段を使っても逃れたい』という気持ちが働きやすい。ただ、人が生きるのは『幸福に生きる』ため。『新しい生活様式』という『コロナで死なない』ための手段がそれにすり替わり、本来の目的である幸福の追求がないがしろにされています」

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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