新型コロナウイルスの流行前なら1時間待ちもざらだった。来院する患者が減り、午後早い時間でも患者がまばらだ(撮影/井上有紀子)
新型コロナウイルスの流行前なら1時間待ちもざらだった。来院する患者が減り、午後早い時間でも患者がまばらだ(撮影/井上有紀子)
AERA 2020年6月15日号より
AERA 2020年6月15日号より

 コロナ禍の受診控えの影響で、地域の診療所が経営危機に陥っている。国からは持続化給付金が支給されるが、それでも補えないほどの赤字を抱えるところもある。AERA 2020年6月15日号から。

【調査】経営危機にある医療機関の収入の状況はこちら

*  *  *

 5月のある日、東京都文京区にある細部小児科クリニックを訪れた患者は、たった4人だった。クリニックの4月中の患者数と診療報酬は、昨年同時期より6割減った。

 新型コロナウイルスが流行してから、「子どもが熱を出した」「くしゃみを何度もする」と駆け込む親たちが激減したからだ。細部千晴院長(57)は言う。

「昨年12月くらいから少しずつ収入は減っていきましたが、3月の収入は前年同月の3割減、4月は同6割減になりました。学校や保育園が休みになり、風邪をひく子どもが減ったのだと思います」

「これくらいなら受診しなくてもいい」という人も増えたとみられる。

 オンラインで子どもを受診させた親たちから、細部院長は「病院に行くのが怖い。新型コロナに感染してしまうかもしれない」と打ち明けられた。

 さらに、命にかかわる疾患の定期予防接種にも来なくなった。小児用肺炎球菌ワクチンなど4月の接種は、前年同時期の3分の1に落ち込んだ。

「今春はステイホームの呼びかけが徹底されたために、インフルエンザが流行せず、予防接種や診察、検査による収入があまり得られなかった。テナント料や事務職員の人件費を払ったら、もう赤字です」

 売り上げが前年同月比で5割を切った個人事業主に最大100万円を助成する「持続化給付金」を申請することにしているが、「それだけでは補えない」という。

 いま、全国の医療機関の多くが経営危機に直面している。

 新型コロナウイルスの感染患者を受け入れる病院は、平均で10%を超える赤字に転落したことはたびたび報じられた。感染防止のためにベッド数を減らした上、検査や治療に人手がかかり、人件費もかさむからだ。事態を受け、厚生労働省は新型コロナの診療報酬を3倍にする方向で調整している。

次のページ