結核の予防接種「BCG」が、新型コロナに対する抵抗力を高めているのでは。そんな研究結果が注目されている。カギを握るのは「訓練免疫」という新発見だ。AERA 2020年5月18日号で、現時点で考えられる可能性を専門家が解説する。
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もし結核菌に対抗するBCGワクチンが、新型コロナに対する免疫も高めているとしたら、どんな理由が考えられるのか。
実はこれまでも、BCGを接種した子どもは感染症の死亡率が低い傾向が見られたり、幼児期のBCG接種が成人期以降の肺がんの発生リスクを下げたり、膀胱がんの進行を抑えたりするという効果を各国の疫学研究者が報告している。
このメカニズムを解き明かす上でカギとなるのが、2012年と18年にオランダの研究チームが発表した報告だ。大阪大学免疫学フロンティア研究センター招聘教授の宮坂昌之さんは言う。
「BCG接種で自然免疫が強化されたことを示唆する報告です。自然免疫は外来の病原体が侵入すると、常に同じ強さで働くというのが定説でしたが、2度、3度と感染を繰り返すとそれを記憶し、ある程度は強くなりそうだということがわかってきました」
「自然免疫」は外から来た病原菌と最初に闘う免疫で、その情報をもとにウイルスなどに個別に対応して強力に排除するのが「獲得免疫」だ。ワクチンは獲得免疫をつけることが狙いで、自然免疫は常に「初見」で病原体と闘うと考えられてきた。だが実際には、BCGが自然免疫と獲得免疫の両方を活性化している可能性が浮上したのだ。
オランダの研究チームは、BCGが自然免疫を強化する現象を「訓練免疫」という新たな概念で提示した。BCG接種を受けた人の血液に含まれる「遺伝子スイッチ」の状態を調べたところ、1回のBCG接種で免疫細胞の活性化を担う「サイトカイン」という物質を分泌しやすくなるようスイッチが入り、自然免疫がパワーアップした状態になることを突き止めた。
宮坂さんは、BCGが自然免疫だけでなく獲得免疫も強化している可能性にも言及する。