外交官の父と作家の母を持つワン。監督になると決めたのは大学4年のときだ。映画の授業で8ミリ作品を撮った。

「自分のやりたいことはストーリーテリングだとはっきりわかったんです。両親を説得するのは簡単じゃなかったけど、2006年にアン・リー監督がアカデミー賞を受賞したことが後押しになった。『あなたよりずっと遅くアメリカに来た彼が成し遂げたのだから、あなたもなんとかたどり着くことができるんじゃない?』と母に言われました(笑)」

 映画にあるように叔父は日本在住で、いとこの奥さんは日本人。村上春樹や宮崎駿、是枝裕和、小津安二郎のファンだそう。実はいま、是枝監督の「そして父になる」のリメークに着手しているらしい。「いろんな人が手をあげてきたけれど、この物語は西洋に置き換えるといろいろなニュアンスが違ってくるので難しかったみたい。私は逆に違う舞台、文化のなかでどんな物語になるかに興味があった。私のバージョンでは妻たちがもっと自分の考えをはっきり言うことになると思います」

◎「フェアウェル」
大好きな祖母に、ある「嘘」をつくことになるビリー(オークワフィナ)だが──? 近日公開

■もう1本おすすめDVD「抱きたいカンケイ」

「フェアウェル」の魅力は、ビリーを演じるオークワフィナに負うところも大きい。ニューヨーク生まれのアジア系アメリカ人で、脚本家やラッパーとしても知られ、「クレイジー・リッチ!」(2018年)、「ジュマンジ/ネクスト・レベル」(19年)など大作に続々出演。そんな彼女がブレークしたのが「オーシャンズ8」(18年)。あの「オーシャンズ11」の姉御版ともいえる快作だ。

 伝説の大泥棒ダニー・オーシャンの妹(サンドラ・ブロック)がある計画を実行すべく、有能な女子仲間を集める。狙うは世界規模のファッションの祭典「メットガラ」でセレブ俳優(アン・ハサウェイ)が身につける宝石。果たして計画はうまくいくのか──!?オークワフィナが演じるのはスリの天才・コンスタンス。ラフでさばけたキャラながら仕事は超繊細。向き合って楽しく会話をしているうちに、気づくと腕時計もサイフも消えている──というチャーミングな悪党ぶりで、豪華キャストに交じって存在感を見せつけた。

「フェアウェル」ではコメディーセンスに加え、ビリーの揺れる内面を繊細に表現している。今後の活躍に注目だ。

◎「オーシャンズ8」
発売・販売元:ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント
価格1429円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2020年4月13日号