20世紀に入ると、最大で約5千万人が亡くなったとも推計されるスペインかぜが流行した。天然痘は1980年に撲滅されたが、その後も新たなウイルスの出現と、治療薬やワクチンの開発が繰り返されている。

 ところが、濱田教授は今回の新型コロナウイルスは、これまでに経験した感染症とは違うと感じている。

「動物からヒトに感染した病原体があっという間にパンデミック(世界的な大流行)を起こすという経験は、少なく見積もってもこの1千年ほどはなかったのではないでしょうか」

 濱田教授は、今回の感染拡大に至るまでに、「20世紀後半以降くすぶり続けていた状況」があったと受け止めている。

 アフリカで70年代後半から広がったエボラ出血熱。マレーシアで98年以降に感染が見つかり、脳炎などの症状を引き起こしたニパウイルス感染症。02~03年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)や、09年にパンデミックを引き起こした新型インフルエンザ。12年に中東で患者が初めて見つかり、韓国でも38人の死者を出した中東呼吸器症候群(MERS)──。

 未知のウイルスが動物からヒトに感染して流行する。その背景には人口増加が関係していると、濱田教授はみている。

「特に第2次世界大戦後、人類がアジアやアフリカなど世界中の至るところで開発行為を進めました。これまで接することのなかった動物との接触を繰り返すことで、未知の病原体の感染が広がってきたと考えられます」

 過去の感染症と人類との闘いから、今回の新型コロナウイルスの感染拡大はどのような見通しが立てられそうか。

 前出の篠原氏は「日本は少なくとも、感染が広がる欧州と比べて国境管理がしやすい利点があります。衛生環境も比較的良く、健康保険の制度もしっかりしているため、すぐにパニックになる必要はないでしょう」。

 ただし、今の段階でまだ安心できる要素があるのかどうかは分からない。濱田教授は、WHOが公表しているSARSの終息までにかかった時間と感染者数を表すグラフを示しながらこう話した。

「グラフから読み取れる感染者の増え方は似ていても、感染者数の規模が全く違います。SARSはパンデミックにならず半年ほどで収まっていますが、今回はそうはいかないと考えられます。いったん終息することはありえますが、完全に終わるのはワクチンができるまで無理ではないでしょうか」

 治療薬がないまま感染が広がるウイルスに、パニックはまだ続くかもしれない。まずは自らが感染しないこと。そして、感染してもうつさないこと。そんな行動が必要だ。(編集部・小田健司)

AERA 2020年4月13日号